正義は伝播しない 1月3日
ゴシキトウガラシ/ ナス科の1年草。果実が緑、紫、黄、橙、赤と変化する。鮮やかな色彩を愉しませてくれた夏に続いて、殺風景な冬のベランダで、今、再び赤い果実を見せている。原産地は中南米。
▼新年早々、ブッシュ大統領の勇ましい演説の光景が映し出されている。地元テキサス州のフオートフッド陸軍基地で対4千人の兵士を前に語る大統領。彼の背景には凛々しい青年兵士たちが配されテレビカメラに映し出される。多くは白人だが中には黒人兵士もいて、丁度大統領の背中あたりには女性の黒人兵士の顔が見え隠れしている。
▼ブッシュ大統領はイラク攻撃への決意を露にする。その論理は「君たちはイラクを征服するために戦うのではない。イラクの人民を解放するために戦うのだ。」 そして大統領の口からまたも飛び出す「正義」という言葉。「我々は平和と自由の大儀のもとに行動し、勝利をえるのだ」
▼ 9・11以来、大統領から何度、正義という言葉を聞いただろう。その度に、芥川龍之介が残した言葉を思い出す。「正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば敵にも見方にも買われるであろう。正義も理屈をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。」 確かに、 世界が様々な正義や大儀を持出した時に雲行きがあやしくなってくる、ことは歴史が証明している。
▼テレビはつづけて北朝鮮での反米キャンペーンも映し出す。数千人の人が動員されての反米集会、皆が異様な熱気でそろってこぶしを振り上げる。これも同じように気持ち悪い。ピョンヤンというショーウインドー都市で一部の特権を包みこむために正義や大儀の厚化粧を脱ごうとしない民衆。世界はまたもや、様々な異様な正義が鉢合わせしそうな不安定な情勢にある。何度、同じ風景をみたら気がすむのだろうか。
▼殺風景な我が家のべランダに無造作に置いていたゴシキトウガラシが冬、再び赤い実をつけた。ノースポールの白と妙に調和している。ナス科の植物なので、秋ナスと同じ理屈で再び実をつけたのだろう。何の世話もしなかったのだが・・・
▼京都大学の矢澤進教授によると、トウガラシは1492年11月4日、コロンブスがキューバ島で発見した。これに端を発し、スペイン・ポルトガルへと持ち込まれ、そこからヨーロッパ、アフリカ、インド、そして中国、日本に伝播し、それぞれの地域で料理に欠かせない存在となっている。
▼スペインやポルトガルの大帝国は次々と衰退していったが、副産物のトウガラシは世界中にネットワークを広げ、今、東洋の端の我が家の狭いベランダで季節はずれの実をつけるまでになった。小さなその姿を見ながら、あまねくいつまでも伝播するのは国家や宗教などというカテゴリーとは懸け離れたものなのだ、と思う。それぞれの地域にそれぞれの正義があるかぎり、正義は決して伝播しない。ならば、トウガラシに見習い発想を大きく変えて、違うカテゴリーで自分たちの行動を考えてみたい、そんなことを思っているうちに正月の半日がすぎた。
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