"共生の根っこ"について考えたい 1月10日
▼ もう10年も前になる。西オーストラリアのピルバラ地方を歩く機会があった。見渡すかぎりの荒涼とした赤い大地、時間が止まったような静寂の中を熱気があてどなく漂う。この大地は、35億年前の地殻を今に残す世界最古の大地である。ここで半年前、世界最古の生物化石が発見された。その現場を取材するのが旅の目的だった。
▼なぜ、西オーストラリアの大地は見渡す限り赤いのか?それは太古の昔、ここに想像を超える量の酸素が発生したからだと考えられる。当時、海では激しい火山活動が続いていた。そのマグマから吐き出された海中に浮遊する様々な鉱物元素の中に膨大な鉄分があった。この鉄と酸素が反応し、酸化鉄となり海底に蓄積した。27億前から5億年の間に海底に浮遊する鉄分のほぼすべてが酸素につかまり海底に蓄積した。酸化鉄の色は赤、海は赤くそまった。そして、この時期に蓄積された酸化鉄により20億年後に登場した人類が鉄の文明を築き上げたのだ。壮大な話である。
▼地球最古の生物はこの酸素と深い関係がある。ピルバラで発見された最古の生物の痕跡、その大きさは100分の1ミリとあまりにも小さい。しかし、この小さな生命がとんでもないことをするシステムを持っていた。なんと太陽の光を用いて水と二酸化炭素(原始の海や大気に溢れていた)から糖分を作り出す、という「光合成」を行なっていたのだ。その結果として、酸素が吐き出された。今、我々が生きていくに欠かせない酸素は、最初、地球にはほとんどなかった。酸素は、生命が自ら作り出す産物なのだ。
▼光合成をして酸素を吐き出した生命体をシアノバクテリアという。登場以来、この小さなバクテリアが爆発的に繁殖した。そしてシアノバクテリアが吐き出した酸素は海中の鉄や硫黄を捕まえ酸化鉄や酸化硫黄に変えつくすと、大気に溢れはじめ原始大気の組成を変えていった。地球環境は激変した。それは生物が地球環境に働きかけ変えていくという画期的なシステムの到来を告げていた。
▼シアノバクテリアは最高の進化を遂げた生命体である。彼ら必要とするものは、まず二酸化炭素、そして太陽の光、そして水、これらは皆、地球に溢れているのもばかりである。この3つがあれば生きてゆけるのだ。つまり、彼らは地球上の構成要素からスタートしそれらを養分に変えているのだ。そしてわれわれは彼らが吐き出すいわば廃棄物の酸素に群がり生きている。
▼シアノバクテリアは、地球に登場してから35億年生き続け今も地球上の至る所にいて酸素を吐き出したいる。しかもその構造は、35億年前とあまり変わっていない。逆に考えると35億年前に、すでに完成されたシステムを持っていたことになる。生命の歴史は絶滅の歴史でもある。かつて生きた種の99.999%が絶滅していった。しかしシアノバクテリアは繁殖している。その意味では、シアノバクテリアは最も成功した生き物である。
▼ 北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)を脱退すると声明をだす、というニュースが飛び込んできた。正義の名のもとにそれぞれがそれぞれの立場を主張することに明け暮れる昨今の人類、もう一度、我々はシアノバクテリアが吐き出した酸素の周りに群がる共生体だということに思いを馳せたい。我々は決してこの惑星の主役ではない。主役は別のところにいる。
参考:自著「生命40億年はるかな旅・海からの創世」(NHK出版)
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