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さらに "共生の根っこ"について考えたい

                                      1月11日 

▼ シアノバクテリアが大量発生した太古の海にいましばらく思いを馳せたい。30億年前の海は火山活動が活発で灼熱、猛毒の硫化水素が噴出す、壮絶な環境だった。しかし、そこにも生命が息づいていた。今も55度近い温泉に生息する温泉細菌の祖先が太古のにもいたと考えられる。彼らは硫化水素を糧として生きていた。
▼温泉細菌はアメーバのような膜を持っている。膜は触手のように、隣の相手を探り合って、仲間どうしで容易に融合したりしていた。融合することでたくさんのDNAが集まった。この時は、重複することの多い無駄なDNAを抱え込んでいたに過ぎないのだが、これが後で決定的な役割を果たす。温泉細菌は硫黄をエネルギーとして生きていたが効率はよくなかった。あまり活発に動きまわることはなかった。
そんな中、シアノバクテリアが出現し、爆発的に繁殖する。そして吐き出された酸素は、それまでの住人である温泉細菌にとっては猛毒のガスであった。温泉細菌は酸素のない海底に追いやられた。天下の覇者、シアノバクテリアが地球上を覆った。
▼しかし、ここで新たなバクテリアが登場する。シアノバクテリアが吐き出した猛毒の廃棄物である酸素を利用して生きるバクテリアである。地球上に酸素という猛毒の廃棄物が溢れ始めた時、初めはそこから逃げ出していた生き物たちも大きな選択を迫られたにちがいない。一つはこの老廃物から目を背けるという生き方、そしてもう一つは、酸素を積極的に利用するという道である。地球上にあふれた酸素は猛毒ではあったが、火が酸素を必要とするように、酸素を使って有機体を燃やすと大きなエネルギーを取り出せる。最初は老廃物であった酸素であったが、これを利用する方法を会得すると、これまでにない高エネルギーを得て、激しく動き回る運動能力、旺盛な繁殖力、そして壮絶な食欲を手に入れた。この酸素を利用する獰猛なバクテリアの名前をブデロビブリオといった。
▼ブデロビブリオは硬い殻を持ち、鞭毛を持ち、餌を求めて精力的に動き回った。そして、酸素を避けて海底にいた温泉細菌に向かう。温泉細菌はアメーバのような柔らかい膜を駆使して防御するが、多くはブデロビブリオに食いちぎられてしまったにちがいない。しかし幾度となく繰り広げられたサバイバルゲームの結膜は意外なところにあった。なんと、どっかりとした温泉細菌の中にブデロビブリオが棲み込んでしまったのだ。そうすることで、ブデロビブリオは膜に囲まれた安定した環境を手に入れることができた。温泉細菌は、酸素を使った生まれた高エネルギーを得た。そして、そのエネルギーを使い、無駄に備蓄されていたかに見えた大量のDNAが活用され細菌内の機能を複雑に進化させることができた。これが今、我々の体を作る60兆の細胞の祖先、真核細胞の始まりだ。
▼温泉細菌とブデロビブリオの共生により真核細胞がうまれて1億年後、さらに大きな飛躍が起こる。あのシアノバクテリアまでもがこの中に組み込まれたのである。おそらく、新興勢力の真核細胞とシアノバクテリアとの間で、さらに熾烈なサバイバルゲームが展開され、その結果、和平が
生まれた。そして、さらに完成されたシステムが誕生した。
▼シアノバクテリアは葉緑体となり、太陽のエネルギーと二酸化炭素と水を使って糖分を作り出し、酸素を吐き出した。ブデロビブリオはミトコンドリアとなり、その酸素を使って糖分を燃やし、エネルギーを生み出す。そのエネルギーを得て、DNAの情報から様々な細胞内の物質の流れが始まる。まさに理想的な循環システムが生まれたのだ。これがすべての植物細胞の始まりである。
▼ 以上は、10年前の取材をもとにした仮説、その後、どのような説になっているのか、勉強不足だが、サバイバルゲームの果てに生命がたどり着いた結論が共生であった、という説は揺らいでいない。
▼、当時、取材の最大のブレーンになってくれたリン・マーグリス博士の言葉は今も重い。「地上の生命進化は、あるものが他を打ち負かすというゲームではありません。生命は数学的なゲーム理論で言えば、ノンゼロサムゲームなのです。ゼロサムゲームとはチェスやピンポンのように一方がロスした分だけ相手が勝つゲーム。ノンゼロサムゲームとは一方が勝ち一方だけが負けるとは限らないゲームです。生命は多くの人が考えるより、はるかにノンゼロサムゲーム的なのです。」

            参考:自著「生命40億年はるかな旅・海からの創世」(NHK出版)
                          
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