トップページにもどります

  朝令暮改            2月10日

白梅/ バラ科サクラ属。原産地は中国中部以南。万葉の時代には渡来していた。
      東風(こち)吹かば匂いおこせよ梅の花
     主(あるじ)なしとて春な忘れそ     菅原道真


▼ 職場の若い人達から見て、自分は言っていることがコロコロと代わる扱いにくい管理職らしい。ある時、出張に向かう車中で、後輩に説教していた。その時、後輩がふと言った。
「先輩、それ、この前、言ったことと違うじゃないですか。」 言われて咄嗟に答えた。「そうか。そうだとしても、自分のモットーは朝令暮改だ。」
なんとも苦しい答えである。そのあまりにもあっけらかんとした態度に後輩は唖然としていたがやがて笑いころげた。
▼朝令暮改といえば、その代表選手はアメリカ政府かもしれない。ダイナ
ミックに方針を大きく転換し爆走して
くので、一瞬でも目を逸らせば、置いてきぼりを食って、まわりはとんでもないことになる。
▼いま、アメリカ政府に大きな影響を与えているのが「新帝国主義」を標榜する「アメリカ新世紀プロジェクト」(PNAC)の主張である。PNACは1997年の6月3日に発足した。東西冷戦に勝利し20世紀を一人がちに終わろうとしているアメリカが次の世紀になにをすべきか・・・それは世界に冠たる軍事力を駆使し、積極的に民主主義を世界各地にもたらすことだ、という「自由の帝国」思想を根底に持っている。
▼PNACのホームページをみればさらに彼ら主張がわかる。「@ 我々がめざす“自由の帝国”は、昔の帝国主義とは違う。ヨーロッパの帝国主義は「原住民」を服従させるために戦った。我々は、彼らに民主主義と法の支配をもたらすために戦う。 A かつてアメリカはマッカーサー将軍を日本に送り込み駐留軍が民主主義を伝播した。この成功例をもって、イスラム諸国に民主主義を確立する。Bフセイン政権を葬り、フセイン排除後もイラクを放ってはおかない。放っておくことは、ヒットラー後のドイツと“東条”後の日本を放っておくことに等しい愚考である。」
(http://www.newamericancentury.org/index.html 参考:松尾文夫 <ブッシュ政権と新帝国主義者の台頭>)
▼このPNACには今のブッシュ政権の主要なメンバーが名を連ねている。チエイニー副大統領、ラムズフエルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官・・・・彼ら新保守主義派(ネオ・コンサーバティブ→ネオ・コン)の主張はブッシュ政権に大きな影響力を持つ。911後の、ブッシュの演説には「解放」「中東に民主主義を」という言葉が頻繁に登場する。そしてそれを指示する民衆はテレビ局の街頭インタビューにこう答える。「アメリカはイラクの民衆を解放し民主主義をもたらす」
「同じ国民に化学兵器を使うフセインを許すことはできない」・・・その強い正義感、でもちょっと待ってよ、と言いたくもなる。
▼サダム・フセインがイラクの大統領に就任した1979年、隣のイランではイスラム教シーア派のホメイニ師が権力の座につき、アメリカをイスラムを脅かす悪魔として非難した。そこでアメリカはフセインに近づき、様々な武器を供給しフセインを後押しした。この時、化学兵器や生物兵器などの大量破壊兵器の種がアメリカによって蒔かれたのである。その経緯を知ってか知らずか、民衆は「イラクに民主主義をもたらすために!」と興奮する。

▼テロに対する先制攻撃を正当化し、民主主義を伝播するという名の元の膨張主義は、必ず破綻し世界を大混乱に陥れる。今のアメリカはその破局の道をひたすら邁進している。中東を自分の手で民主化するなんて傲慢な夢だ。
 しかし、アメリカという国の懐の深さは、そうなる前に大きく軌道修正するその激しい振幅力にある。間違っていたと思ったらそれをすぐに修正する冗長性をアメリカという国は持っている、と信じたい。
▼今、新保守派に対峙するのは同じ保守派のパトリック・J・ブキャナン氏ら孤立主義派グループだという。ブキャナン氏はこう説く。「9・11はアメリカが建国の父たちの対外不干渉主義の遺訓にそむいて海外の紛争や戦争に惜しみなく金を使って愚かな介入を繰り返す『浪費国家』の産物であり、こうした介入路線を続けるかぎり、テロ行為がいつまでも米本土を襲い、いつの日か大量破壊兵器が米国内で爆発するような事態が生まれる。アメリカはいまこそ帝国ではなく、共和国としての原点に帰るべきだ」(参考:松尾文夫 <ブッシュ政権と新帝国主義者の台頭>)
▼共和党の長老、キッシンジャーも、最近の新帝国主義のうねりにこう警告している。
 「アメリカの課題は、自身の優越を自覚しながら、あたかも依然として多極世界で生きているかのように政策を運営することである。」
 アメリカが早く、帝国主義から孤立主義へと大きく振幅してくれることを祈る。
                          2003年2月10日
トップページにもどります