トップページにもどります

   脇役の暖かさ      3月15日

シロタエギク(白妙菊) / キク科の宿根草。別名ダスティミラー、粉にまみれた粉引き屋。その名の通り、細かく切り込んだ葉や茎に白い綿毛が密集し、全体が銀白色。2年目以降に黄色い花をつける。原産地はイタリア、シシリー島、北アフリカなど地中海沿岸。花言葉は、あなたを支える。

▼もし、自分の庭を持てたなら、白を基調にした草花をたくさん配して、その中に一点の真紅の花を植えてみたい。赤を引き立たせるのは難しい、そのための白の大切さを語ったのは、「夕庭」の中の丸山健二だったか、確かにその通りだと思う。
▼白妙菊に始めて注意がいったのは数年前、公園のテニスコート沿いに小さな花壇があるのに気がついた時だった。「こんなところが花壇になっているのか」何度となくテニスコートに通いながら、迂闊にもその存在に目がいかなかった。ボランティアのグループが世話をしている花壇だと立て札に書いてあった。
▼その紅い花がなんだったのか忘れてしまったが、その赤を一段と際立たせているのが、背景に植えられた銀白色の雪原のような白妙菊の群生だった。誰が配したのかわからないが、明らかに作った人の意志がある。さっそく白妙菊を手に入れベランダの小さな鉢に植えた。雑然としたベランダで、今も元気に伸びてはいるが、我が家の白妙菊は、惹き立たせる主役をもたない、寂しい脇役である。

▼昨日は久しぶりに、職場の後輩達と朝まで飲んだ。勤めるテレビ局は連日、「イラク」を巡って、飛び込んでくる様々な最新情報の処理に追われている。その第一線で毎日、20分サイズのリポートを構成する彼らのストレスは飽和点に達している。今日の時点で、どうも戦争は避けられない状況になっている。誰だって戦争は避けたい、しかし、縺れ合った積年の欧米の利害や思惑、それを巧みに利用して生き残ろうとする独裁者の格闘劇はクライマックスへと転げ落ちようとしている。そして、呆然と見ている観衆は、やがて舞台上の惨劇が自分たちに降りかかってくることを知りながらも逃げ出すことはできない。若い後輩たちは、連日、舞台のストーリーを追うだけで、「もう劇はやめだ」と声を発することのできないもどかしさを語り、それを暗黙のうちに空費している我々、管理職に怒りの矛先を向ける。しかし、それを受け止め、彼らに安静の展望を与える程の力量はこちらにはない。ただ、一瞬にして酒場の空気に吸い込まれて消えていく訳のわからぬ罵声で答えている卑屈な自分がいる。

▼世界はいつのころから、こんなに傲慢な主役たちであふれてしまったのか。
父親の果たせなかった夢を追い正義の御旗のもとに、あらたな十字軍を率いこぶしを振り上げる軍事大国の大統領。
それを受けて立つのは、貧しい家に生まれ人を出し抜くことでのぼりつめた被害妄想の悪漢。皮肉なことに、この悪漢の故郷ははかつて十字軍の手からエルサレムを奪還した英雄サラディンの生地である。
さらに正論を振りかざし観客の歓声を味方にしてやがて漁夫の利を得ようと動く商人たち。
そして、舞台に上がらず、いつものように時の流れに身をまかせ様子をうかがう我が母国。
どこもかしこも自分勝手な主役ばっかりだ・・・・泥酔の体を悪い夢が還流していく。

▼昼すぎに目が覚めた。だるい二日酔いの体で、ベランダにでた。日差しを受けた、謙虚な白妙菊の銀白色が暖かだった。いつか、紅い一輪の花を引き立たすために白妙菊を一面に配した花壇をつくってみたい。
                     2003年3月15日                  
トップページにもどります