トップページにもどります

 "見えない戦争の正体  3月16日

 
 ユリノキ / モクレン科の落葉高木。5月〜6月に高い梢の葉陰にチューリップ、あるいはユリのような黄緑色の花が咲くところからユリノキという名がついた。葉が着物の半天のようにみえるところからハンテンボクとも呼ばれる。






光が丘公園の1本のユリノキには「黄色い葉の精霊」が宿っている。秋の公園でその鮮やかな黄色に出会ってから、何度この樹の下を訪問したことか。その都度、「黄色い葉の精霊」は柔らかく迎えてくれる。葉のない裸樹の下で、今日も自分なりに世界のことを考える。

▼ 9・11以来、世界はすっかり変わった。また、振り出しにもどったといった方がいいのかもしれない。同時多発テロ発生以来、大統領から飛び出す、「十字軍」「見えざる敵」「新たな戦争」「正義の戦い」・・・その奇異で神がかった言葉に呆然とした。はじめは、テロという見えない犯罪組織との戦いであるはずであった。しかし、すぐにそれは「戦争」にかわり、「見えない戦争」はすぐに「「タリバン」という敵をみつけ「見える戦争」に代わり、いつのまにか次の標的がイラクになった。
「なぜイラク攻撃するのか」、こちらがその理由もわからぬうちに戦争への準備だけが整った。そしてイラク攻撃の根拠として、「大量破壊兵器」という言葉が用意され、盲従する同盟国はこの言葉をよりどころに米国の行為を正当化していった。

▼なぜ、アメリカはイラク攻撃にこだわるのか?その答えを自分なりに探す中で、ブッシュの政策ブレーン「PNAC」の存在を知った。20世紀を一人勝ちで終えたアメリカが、21世紀もさらに躍進するためには新たな戦略をつくりださなければならない、それが「自由の帝国」だった。民主主義を伝播し人々を解放する帝国としてアメリカは君臨する。その第一の目標に「サダム・フセイン打倒」が掲げられた。
▼あの湾岸戦争で父親ブッシュは戦争には勝ったが選挙に敗れ退散した。フセインはクエート侵略の野望は果たせず敗れたが、イスラエルにスカッドミサイルを撃ち込んだ男として熱狂的に受け入れられ、経済封鎖の中でもしたたかにフランス・ロシア・中国を操り、君臨しつづけた。
▼その様子を苦々しく見ていたのが、父親ブッシュと湾岸戦争を戦ったスタッフ達である。彼らには「フセイン打倒」はやり残した大仕事であった。PNACは、父親ブッシュの側近たち、3000万人ものキリスト教原理主義者、そして巨大な資金源をもつユダヤ・ロビーと結びつき、さらにはイスラエルの右派とも繋がった。こうした目論見の果てに、民主化をキーワードにした中東の支配がある。
アメリカの不幸の始まりは、このPNACの誕生と9・11という惨劇が重なったことにある。

▼テロという「見えない敵」によりニューヨークを攻撃された米国民は、歴史上はじめて本土を攻撃された。米国ははじめて「二人称の痛み」に胸をえぐられた。そのトラウマの中で米国は今も、もがき苦しんでいる。その精神状況の中では「見えない敵」をそのままにしてはおけなかった。敵の存在を露にして、明確な目標を導き出さなければ、精神は破壊される。その処方箋に、
PNACの掲げる「自由の帝国」は最適だった。なにより、薬がほしかったのは大統領だったのかもしれない。皆が「見えない戦争」の「敵」を露にして安心したかった。アメリカのPTSDは、「敵」を探し出すことで、とりあえずの安定を得たのだ。

▼被害妄想、不安神経症、自家中毒・・・・「見えない戦争」の正体は、アメリカ自らの精神のあえぎから噴出した、破滅の自慰行為である。アメリカは今、自分の姿を見失っている。

▼ 12日の東京新聞、鶴見俊輔の言葉 「テロをとめる道は、ひとつ。わかった。自分たちは、原爆その他の武器を捨てよう。あなたがたも捨てなさい。そうして世界平和の道をひらこう。世界の貧困と取り組む道をさがそう。 だが今の世界最強国の指導者には、自分の姿が見えていない。」
                     2003年3月16日     
トップページにもどります