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  ある日の村長の演説 2003 2月14日

ハナキリン / トウザイグサ科。原産地はマダカスタル中央の高原地帯。大部分の葉は鋭い棘にかわっている。葉は茎の先端の方にしか残っていない。恐ろしげな棘だらけの茎の先端に咲く花は、対照的になんとも愛らしい。ミニ観葉植物として日本では重宝がられているが、原産地のマダカスタルでは、2メートルにも育ち、帰化したスリランカでは除草に追いつかないほどはびこっているという。花言葉は、自立・独立。

▼ある朝の"草木花”村、村長が、皆に召集をかけ、これからおこなう演説は有線放送で村中に流すようにと指示をだした。
▼「えー、みなさんおはようございます。きょうの話を始める前に、まず、日本村の憲法を今一度、思い出しましょう。その第9条です。
『わたしたちは、こころから求めます。世界中が正義と秩序をもとにした平和な関係になることを。
そのため、日本のわたしたちは、戦争という国家の特別な権利を放棄します。国と国との争いを解決するために、武力で脅したり、それを使ったりしません。これからも、ずっと。』

▼私たちの村の掟はアメリカとの共同作業でつくられたものです。これを作った時、みんな、本当に、平和について考えた。しかし、それから、まもなく、世界は<冷たい戦争>に突入し、アメリカもすっかり変わってしまった。そして、今、再び、友人のアメリカはあらたな戦争を仕掛けようとしています。イラクの悪漢は相変わらずのこちらの警告に耳をかさないノラリクラリの態度です。でも、それに負けてはいけない、辛抱強くやりましょう、とアメリカ大統領には何度も話をしたのですが、大統領はもうがまんできない、といっているのです。さて、困ったです。どうしたらいいものか、村長としていろんな人の意見を聞き、大統領とも話をし、次のような結論に達しましたので、みなさんにご報告します。

▼1、“草木花”村はイラクへの攻撃を支持しません。国と国との争いを解決するために、武力で脅したり、それを使ったりしない、というのが村の原則です。しかし、日米同盟のもとに、村にある米軍基地から米軍のイラクへの出撃は認めます。ただし、戦争にかかるあらゆる費用は負担しません。
▼2、戦争が終わり、イラクの復興が始まるにあたっては、“草木花”は最大限の努力をします。それは『世界のすべての人々は恐怖や貧しさから免れて、平和に生きる権利がある』(憲法前文)という憲法の精神に基づいています。これは路傍の人々に目を向ける私たちの意志です。

▼ここまで話すと、不安に思う人もいるでしょう。お隣の北朝鮮のことです。北朝鮮の将軍もまた国際社会の大きな不安であることは明らかです。北朝鮮の多くの人々が今、恐怖や貧しさに喘いでいます。将軍やそのまわりの人々だけが、物に恵まれた生活をむさぼっている現実には目をつぶることはできません。しかも、瀬戸際に追い込まれた将軍は、いつ、日本にミサイルを撃ち込んでくるかもしれない、そんな一発触発の状態の中で、アメリカのイラク攻撃を支持しない、というような立場を表明したら、アメリカが旋毛を曲げないか、という意見があります。
確かにこれは頭の痛い問題です。ただ、いま、私たちにできる大きな冒険は、「捨て身になってみる」ことではないか、と私は思います。捨て身になって私は北朝鮮に行った。そこで曲がりなりにも将軍と話をし、約束も交わしてきました。その成果をもとに、わたしはこれからも将軍に愚直に、『そんなつまらないことはやめろ』と諭し続けたい。その原点にあるのは、憲法です。そして過去、原爆を落とされた経験を持ち、いかなる核兵器ももたない、と宣言したわが村の現実からでた確信です。

 (ここで大きなブーイングがおきる「そんな青いことばっかりいっているからだめなんだ。」「何を甘えたことばかり云っているんだ!」「いい加減に大人になれ、このアマちゃん村長!!」)
▼皆さんは例によって、いつも情感に流され現実を知らない頼りない木偶の坊だとおっしゃるのでしょうが、いまの私には辛抱強く、将軍と話をつづけることしかありません。それが私の方針です。もし米軍が旋毛を曲げて、日本を守ってくれなかったら?という不安より、アメリカが先制攻撃をして世界が一気に紛争の現場になることのほうが、もっと怖いことだと私には思えます。『先制攻撃はいけない』と友人として何度も大統領に話しつづけたいと思っています。これが友情だと私には思えます。

▼(さらに大きなブーイング )
この半世紀、日本村は日米同盟のもとで、ずーと深く考えることもなく、アメリカにまかせっきりで、それぞれの暮らしに没頭してきました。しかし、最近の北朝鮮、イラク、そしてアメリカが露にしてくれた問題は、私たち日本村の未来について実に具体的な示唆を与えている、と思います。
この数ヶ月の世界の動きの中で、私は、日本村がアメリカまかせにせずに、自分たちの主体性で平和を維持する道筋が、見えてきたと確信しています。

▼アメリカも懐の大きな国です。かつてこの村の憲法を共に作った仲間です。今は、ちょっと危ない方向にいっていますが、あの国は必ず次には大きく振幅する、そのダイナミックさがアメリカの魅力です。そのアメリカとなんでモノがいえる関係に私はなりたい。同時に、アジアの隣人たちとも、ともにそれぞれの安全を考える仕組みをつくってみたいと思うのです。
▼その時、隣人たちに安心をあたえるのは、『わたしたちは、戦争という国家の特別な権利を放棄します。国と国との争いを解決するために、武力で脅したり、それを使ったりしません。これからも、ずっと。』という半世紀前にわたしたちが立てた誓いです。私たちの根っこにあるのは路傍の草花の思想なのだと私は信じたい・・・」

▼ 村長がここまで話したら、木造の村役場に陽がさしこんできた。人々はいつもの仕事を始めた。窓際にはハナキリンの鉢が一つ、小さな赤い花をつけていた。
ハナキリンの花言葉は、自立・独立・・・・。

       ※寺島実郎氏の最近の発言に敬意を表し参考にさせていただきました。
       ※参考書籍「やさしいことばで日本憲法」(マガジンハウス社)
                     2003年2月14日                  
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