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  錯覚     2003年3月28日

コブシ(辛夷)/モクレン科モクレン属。日本全土や朝鮮半島南部に自生する落葉高木。早春の寒々とした山中に葉に先立って白い花をつけて春の到来を告げる。三枚のガク片に包まれて六枚の花弁があり、開花すると径10センチ前後になる。コブシの名前は蕾の時の形が幼児の拳に似ているから、また果実の形が拳に似ているからともいうが・・・。類似種としては12〜18の花被片をもつシデコブシ、美しい淡紅色で、花がやや小さいベニバナシデコブシなどがある。花言葉は友情、自然の愛。

▼毎日毎日、戦争のことばかりで、マンネリ化している、という声を受けて、きょうは草木花のことをしっかり書こう。

▼冬の間、綿毛に包まれた蕾をじっと風に晒していたモクレンやコブシが花開くのはあっという間の出来事である。しかも、陽光にその薄い黄色のかかった白を見事に反射させる美しさはほんの数日で、あとは萎びてだらしない姿になってしまう。仕事にかまけていると、絶好のタイミングを逸してしまうことになる。
▼モクレンは中国原産の花である。大作りの花形で優雅な趣を漂わせてくれる。一輪一輪がはっきりして木蓮と言う名の通り、蓮の花を思わせる。まさに大陸の風情がある。
▼コブシは日本特有の植物である。花弁は細かくさけて、ゆらりゆらりと風にそよぎ、こころもとない。周りの風景に同化されやすい頼りなさも感じ、見方によってはいかにも日本的である。

▼歌にもあるように、コブシの花は北国に春の訪れを告げる。
京都府の船井郡の丹波町や長野県上高井郡の高山村では、この花の咲く頃を、味噌しこみに最もよい時期とし、秋田県の北秋田郡や仙北郡では、コブシの花の咲く頃を、種まき時の最上の季節としてコブシの花をタネマキザクラという。
一瞬、残雪かと思いきや、忽然と森を綿毛のように埋めるミルク色に、人々は、まもなく桜が咲き乱れ本格的な春がくるんだ、と知らされる。


▼インターネットで検索していると、いかにもコブシらしい、こんな話が掲載されていた。

壇ノ浦の決戦に敗れた平家の落武者が逃れ逃れて、熊本の山奥まで来た時のことである。
ある朝、目を覚ますと、あたり一面、源氏の軍勢の印である白旗がはためいていた。落人たちはこれを見て、もはやこれまでと全員が自決した。しかし実はこの白旗と見えたのは錯覚で、その正体はコブシの花だった。

 このエピソードを読んで、すぐにイラクの民兵と米兵の心理状態を思ってしまうのは、やはり、頭の中が戦争でいっぱいの証拠だろう。

いずれにしても、今年の春は一気に押し寄せてくる。忙しくなりそうだ。

                     2003年3月28日                  
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