星の瞳 2003年3月29日
オオイヌノフグリ/ゴマノハグサ科
別名ヒョウタングサ、テンニンカラクサ 越年一年草
▼春の陽光とともに光が丘公園には人々が押し寄せる。ソメイヨシノの下での賑やかな花見の季節が今年もやってきた。その人の輪を潜り抜け、公園の一角の草むらに行くのを楽しみにしている。週末、そこには予想どおり、花弁の直径5ミリ程度の小さな青い花が咲き乱れていた。その横に寝転がる。至福の時である。寝転がって真近で見る花は、オオイヌノフグリ(犬の陰嚢)とはよく言ったもので確かにその形はそっくりである。和名の名づけ親もおそらく、こうやって寝転がって真近で見た時に思いついたのであろうか。ユーモラスではあるがロマンには程遠い名前をつけられたものである。
▼草木の素人写真は手持ちで撮ることに決めている。三脚を立て、もっともらしく撮るのは性に合わない。下手は承知の上である。芸術作品をめざしているわけではない。ただ、通り過ぎる道端で視野に飛び込んでくるものを自然にカメラにおさめる。その流れる時間での草木花との偶然な出会いがいいのだ。大宅壮一のペンカメラを意識している。しかし、最近、路傍の雑草には、この無精な方法は通じない、と痛感している。当たり前のことだろうが、小さな草花に恐れ入って手持ちでシャッターを押しても十中八九、ピンボケになる。何度、ピンボケの写真満載のネガを見てがっかりしたことだろうか。
▼このオオイヌノフグリも、視野に飛び込んできたハッとする美しさと、仕上がったピンボケ写真との落差に泣かされ続けている花だ。シャッタースピードを考えて、光の当たっている花を撮ると、花は真っ白になる。光を一点に集めるその形には感心するが、あの奥深いブルーはいまだに撮れない。
▼千葉県のあるところでは、この花を「星の瞳」と呼ぶそうだ。すばらしい名前だと思う。「オオイヌノフグリ」が寝転がって真近で出会った第一印象から名づけられたのなら、「星の瞳」は遠くから、「なんだろう。あの青くキラキラしたものは・・・」とゆっくり近づいてくる風景を想像させる。
そう思って、群生を撮ってみるのだが、できあがったものはいつもなんの変哲もない雑草の茂みになってしまう。雑草の愛らしさを表現するのは本当に難しい。今年は面倒臭がらずに三脚をすえ、春から夏にかけ咲き乱れる雑草達をじっくりとカメラにおさめてみようと思う。
▼オオイヌノフグリの原産地はヨーロッパである。明治時代に日本に入り、あっという間に全国に広がった。この花はユーラシア大陸一帯に広く咲き、イラク北部の草原で見た、という話をどこかで読んだことがある。いつか、戦場の草原に咲く雑草をカメラにおさめる旅をしてみたい。
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