陽光 4月1日
ヨウコウ(陽光)カンヒザクラ群(寒緋桜)/亜寒帯に近い暖地に分布する桜で、日本では琉球諸島に野生化している他、東京以南で多く栽培されている。花弁は5枚で濃紅紫色を中心に、淡紅紫色から白色までさまざま。開花期は沖縄地方で1月下旬〜2月上旬。関東地方で3月中旬ごろ。九州地方では旧暦の元旦に咲く桜として、ガンジツザクラ(元日桜)の別名もある。他にヒカンザクラ(緋寒桜)、サツマヒザクラ(薩摩緋桜)とも呼ばれている
▼朝のワイドショーでピーコが「こんな戦争戦争といっている中でも、きちんと桜は咲くのね」とさらりと言ったのを聞いた。この人の時代をつかむ感性は年を追うごとに純化してくるように思う。太陽の光を受けながら、規則正しく季節を刻む植物、人間社会の目論見などとはお構いなく、鮮やかな花を咲かせる桜並木。あわてて人々は、花見の支度をする。皆、われにかえるのだ。
▼同期の友人Aは近頃、ますます深い味わいを出している。30歳代、40歳代前半、これほど仕事を愛し、没頭した男はめずらしい。そして一方では日本酒をこよなく愛する酒豪でもあった。3年前、Aは突然、脳溢血で倒れた。そして死の淵から生還を果たした。
▼Aが意識を回復したと聞いて、同期の何人かと病室を訪ねた。奥さんが言った。「ようやくこの人、私のもとへ戻ってきたました。」 仕事か、さもなければコクのある日本酒を求めて放浪するAは、結婚以来始めて奥さんの掌に乗ったのだろう。
▼「 ICUで意識が戻って、この人が最初に言った言葉、何だと思います? 」 奥さんが聞いた。
なんだろう、と答えを探していると、奥さん 「梅酒、梅酒のソーダ割りが飲みたい、って。全く呆れたわ。」 皆が笑った。Aも笑った。愉快なAの風情が健在なのを確認し皆、安心した。
▼職場復帰してからのAは以前とは変わった。あの仕事に向かう猪突猛進の姿勢は消えた。かつてのAを知らない若手が、尤もらしく話しているのをじっと聞いている。「こんな訳知り顔の青二才の言うことなんか吹き飛ばしてしまえ。お前はこいつらが足元にもおよばない経験と実績があるんだぞ」と横でいらいら思うこともあったが、Aはゆったり動じない。あの大病以来、Aは大きくなった。
▼奥さんの目を盗んで、時折、おいしそうに少々の日本酒をたしなむ。その至福の時間のために、店屋の選定から何から何まで楽しそうに準備を怠らない。春、職場の前の公園に一斉に桜が開くと、A主催の花見が開かれる。お気に入りの弁当屋で皆の分まで手配し、昼休み、花見に出かける。彼の本当の目的は、その途中で買うビールかもしれない。実に美味しそうに飲み干す。死の淵から生還したした男は何か大きなものを手に入れて歩き始めている。
▼春は陽光。A主催の花見の宴が今年も開かれるだろう。
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