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  ひとつの寓話      4月10日











▼ヒナゲシ・英名ポピー/漢名は虞美人草。楚の項羽の愛した虞美人の墓に植えたという。ヨーロッパ原産
でその栽培の歴史は古く、古代エジプト第19王朝の墓の壁画に庭の花として描かれている。
ケシ科。日本で一般に栽培されているポピーは3種類、
@オリエンタルポピー(別名オニゲシ)・・・赤く大きな花をつける宿根性種。
Aヒナゲシ(別名 虞美人草)・・・ピンク、赤、紅紫色の花が咲く。一年草。
Bアイスランドポピー・・・花色は白から黄色、橙、濃朱紅色まで豊富。
宿根草だが一年草として栽培されている。花言葉は「慰め、心の平静」。ギリシャ神話の中で農耕の女神デーメーテルが、心の慰めや平静をこの花に求めたという逸話から花言葉が生まれた。


▼米英軍は9日、バグダッドを制圧した。今朝の新聞の見出しは各社すべて「フセイン体制崩壊」という文字が一面を占めた。1979年以来続いたフセイン体制はイラク戦争21日目に崩壊したことになる。以下、全く個人的な空想・妄想である。

▼9・11の衝撃が世界に走った翌日、ホワイトハウスに一人の男がロサンジェルスから呼ばれた。その男の名前をXとする。Xはハリウッドに知れ渡ったシナリオライターである。彼のチームが構想した映画は悉く大ヒットを飛ばしている。
その日、Xにはホワイトハウスから、ある壮大な物語のシナリオを書いてほしいとの依頼があった。
題名は「自由の帝国 エピソード1 イラク戦争」 Xはさっそくプロジェクト・チームを結成し、詳細なシナリオを書き上げた。

▼シナリオは、@ 美人パイロットによる空爆トップガン物語、A 花形テレビ・キャスターによる、砂嵐の中、緊迫の地上戦従軍物語 B 捕虜になった美少女兵士の
感動の救出作戦 ・・・・それぞれのエピソードを巧みに
絡ませながら米英軍はバグダッドへ迫る。なんといってもクライマックスは、市街地のレストランに集まったサダム・フセインの一族を情報をつかんでわずか数十分で空爆する、そのワシントン、カタール、空母キテイホーク
を次々にフラッシュ・バックしながらの緊迫のシーンだ。
▼そして、シナリオの最後は、バグダッド中心部の広場に立つフセイン像が民衆の手によって倒され、その中継映像をホワイトハウスで見ていた大統領がこぶしを振り上げ「これは歴史的瞬間だ」と絶叫する場面がカット・バックされる。
▼X氏らプロジェクト・チームはこのシナリオ完遂のために特殊部隊の中に、ハリウッド映画のスタッフを送り込んだ。彼らは先々の現場で舞台設定、エキストラの招集などをおこない、戦況がシナリオどおりに滞りなく進むために奔走した。
▼ハリウッド・チームの仕事の最大の山場がやってきた。舞台はバグダッド市街中心部の広場、フセイン像の前だと何ヶ月前に決めていた。その前に自動カメラをセッテイングさせた。広場を映した中継映像は世界中に配信され、各局のテレビ局は毎日のようにその映像を流し「ごらんいただいているのは現在のバグダッド市内の映像ですが
今のところ平穏のようです。」とアナウンサーはコメントした。この横(4)×縦(3)のフレームの中が物語の大団円を飾る舞台に選ばれていた。
▼前日、バグダッド市内の各国の放送局が砲撃され予想通り麻痺したのを見計らい、ハリウッド・チームはチグリス川東側の市街地サダム・シティに入った。その地域の中心にあるレストランを狙っての空爆が行なわれた。その突然の爆発に市民は恐れおののいていた。ハリウッド・チームは特殊部隊と協力し「フセインは死んだ。もう怖いものはない。みな広場に集まるんだ。」と説いて回った。
▼もう一つのチームは広場に陣取り本番に向かっての絵作りに入った。
「よーい、スタート」を合図に戦車が広場に入った。世界中に配信されている、フレーム横(4)×縦(3)の中継映像に戦車がフレーム・インしてくる。「おいおい、広場でなにか始まるぞ。」世界中のテレビ局が広場に注目しはじめた。
▼はじめにサダム・シテイからやってきた市民が銅像にあがり、鉄槌で銅像を叩き割ろうとした。その映像はベルリンの壁崩壊を彷彿とさせた。予想通り、世界中の人々が、この銅像前が歴史的な現場になんだと知覚した。
▼銅像が一つの鉄槌では崩れないのは織り込み済みだった。見かねたように米兵が銅像にかけのぼり首にロープをかける。その時、若き米兵が星条旗をフセインの首に巻く。「あー、それをやっちゃおしまいよ。」画面に食い入る日本の良識的な視聴者の溜息。「なにやっているんだ。お前たちアメリカはやっぱり侵略者だ」アラブ諸国の視聴者は大きなブーイング。そして、アメリカ・テキサス州「やったー、アメリカ万歳!アメリカ万歳!」いっせいに喚声があがった。・・・・この反応も織り込み済みだった。あえて星条旗をかかげたのは、アメリカ国内の選挙民を意識した暗黙の了解だった・・・
▼市民がフセイン銅像倒壊の作業にてこずっているのをしばらく見て、画面に装甲車が入ってきた。これもあらかじめ待機していた。この銅像倒壊は彼らの最も重要な任務だった。この戦争のシナリオは、この広場のこの銅像の前のシーンに収斂しなければならなかった。そして、予定通り、装甲車に引っ張られて銅像はフニャッと折れて引きづられた。中継映像のカメラマンに指示がでた。「画面を引くな。アップで攻めろ!アップでいけ!」崩れた銅像に人々が群がった。いや、実はそのほとんどがマスコミ関係者かカメラマンだったのだが、この歴史的瞬間の興奮の中ではそんな疑念はかき消された。もし、ゆっくり、カメラをズームバックすれば、この人の輪が存外に小さく、遠巻きに相変わらず疑心暗鬼の人々がじっとみている映像が入っただろうが、X氏らが作成したカット割にはそんなさめた映像を挿入するなど考えにもよらぬことだった。なぜなら、このシーンの狙いは「自由の勝利、イラク民衆の解放」だったから・・・・
▼中継映像を食い入るように見ていたブッシュ大統領が絶叫する。「イラクは解放された。これは歴史的瞬間だ。」
倒壊する銅像がもう一度スローモーションで流れる。そこにこれまでの戦場のハイライト・シーン、とりわけ、米国民衆を感動の渦に巻き込んだ人質救出作戦のシーンが心地よく挿入される。そしてもう一度、大統領の声「これは抑圧された人々を解放する自由の戦いだ。」 
▼ゆっくりとスタッフの名前が書かれたロール・テロップが画面いっぱいに流れる。
そして、最後に次回作の予告 自由の帝国 エピソード2は中東の民主化 乞うご期待!」
 これを観ていた日本のある観客の呟き「あれ、つぎは北朝鮮編ではなかったの?」

                     2003年4月10日                  
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