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 人類最古の花           4月13日

ムスカリ/ユリ科ムスカリ属。英名はグレープヒアシンス。もともと、地中海沿岸地方から西南アジアにかけて40種類くらいある。園芸種にはないが野生種の花には麝香のような甘い香りを放つ種があり、ムスカリとはギリシャ語で麝香(ムスク)からつけられたという。花言葉は失望、失意。

▼バグダッドは略奪の町と化したようだ。フセインという独裁者の重しをはずされた民衆は今度は無秩序な盗賊の襲撃に怯えることとなった。現地から送られてくる映像は、民家に押し入り電化製品から椅子まで奪い取り、担いで歩く盗賊達で溢れている。こうりた混乱は当初から織り込み済みだったのか、米軍はこの異様な風景を傍観しているように見える。

イラク北部のザグロス山脈にシャニダールという洞窟があった。1960年、アメリカの人類学者ラルフ・ソレッキはこの洞窟で、約5〜6万年前のネアンデルタール人(旧人)の骨を発見した。、旧石器時代、遺体は洞窟に埋葬された。発見されたネアンデルタール人は40歳前後(現代に換算すると80歳位に相当。)と推定された。

▼。その調査の際、意外な発見があった。丁寧に埋葬された墓の土を分析したところ、なんと沢山の花粉
が発見されたのだ。その花は、青く透きとおるようなムスカリや黄色い小さな花を沢山咲かせるノボロギクなどである事が分かった。6万年前、この一帯は厳しい氷河期だった。その過酷な環境の中で、人の死を悼み、その周りにムスカリの青を敷き詰め、故人を花で埋め尽くしたネアンデルタール人の愛情、精神文化の豊かさに驚かされる。この発見は、ネアンデルタール人は現代人と同じホモ・サピエンスの仲間だと認知されるきっかけになったという。

イラクという地域には、人類の誕生から繁栄、そして破壊・・・すべての物語が濃縮されている。常軌を逸した略奪は国立博物館にもおよび、4千年前の文化遺産、ハムラビ法典を刻んだ石碑まで奪われたという。このままいくと、バビロニアなどの遺跡群が荒らされるのは時間の問題だ。湾岸戦争の際、父親ブッシュは「遺跡群は保護するように」という指示をいち早くだした。今回、息子がそんな配慮をあらかじめしていたという話は聞かない。無残に荒らされ破壊された博物館の映像を見ると、現代人の想像力の貧困さにげんなりしてくる。6万年前の先祖にもはるかにおよばない心の貧困である。

▼人類最古の花のひとつ、ムスカリの花言葉は失意、失望。6万年前の人類は愛するものを失った「失意」の吐露として亡骸のそばに花を置いた。それは明日の豊かさにつながる「失意」だ。
今、この文明世界に広がる「失意」、どう受け止めればいいのだろうか。

                     2003年4月13日                  
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