<最終更新日時:

     鍵の花                4月30日

サクラソウ(桜草)/サクラソウ科サクラソウ属。四国と沖縄を除く日本全土と朝鮮半島、中国東北部に分布する多年草。もともとはヒマラヤ山地で生まれたものだが、それが袂を別って分布圏を東西に広げていった。世界に300余種類あるといわれる。かつては大群生地が各地にあったが、最近は絶滅寸前で、有名な自生地は国の天然記念物(埼玉県田島ヶ原)として保護されている。花言葉は「神秘な心」「勝者の寛容」。

▼きのうの柔道全日本選手権は千両役者がそろった舞台劇のようだ
ったた。この大会で引退を決めている
篠原。シドニーオリンピックで不本意な判定のたま銀メダルに留まった篠原の無念の表情は忘れられない。その後、天理大学の指導者として気力を取り戻した篠原は後輩たちのために爽快な最後の舞台を見せたい、という気合に溢れていた。準決勝の相手は新星の鈴木。連続する軽快な足技は切れ味するどい刃物のようだ。篠原は鈴木の組み手のうまさに苦戦しながらも攻めまくった。勝負は1対2の判定、きわどいところで篠原は敗れた。「優勝したかった。」とインタビューでは悔しさを語っていたがその表情は充実していた。次代を背負う新星に確かなバトンタッチをしたという満足感があったのだろう。
▼決勝は井上康生と鈴木の一騎打ちとなった。3週間前の全日本選手権体重別決勝で、井上は新星の鈴木に敗れた。しかし、世界選手権の代表には井上が選ばれた。これまでの井上の実績を買っての異例の選考だった。この選考に井上は「本当に情けない」と首を垂れた。そして、満を持してのぞんだこの無差別級決勝。一方の鈴木は3週間前の勝利を「まぐれだったとはいわせない。今度も勝つ」とのぞんだ。追い込まれた二つの気迫が素晴らしい緊迫感をかもし出した。
▼まったくの五分の形勢で時間が流れた。そして3分5秒、ほんの一瞬の隙間を井上は見逃さなかった。ナノ・セカンドのスピードで組み手を自分のものにして内股。完璧な一本だった。井上、大きく体を反らせてのガッツポーズ、鈴木は泣き崩れた・・・・。篠原、井上、そして新星の鈴木、次々に主役が登場する今の柔道界には、世代交代のダイナミズムがある。後に続く者の成長に手ごたえを得て引退する王者、そして後を継いだ王者、その王者が気を休める間もなくヒタヒタと迫る次の世代・・・・繁栄はこうした澱みない世代のバトンリレーから生まれる。

サクラソウ。その花言葉は「勝者の寛容」、この美しい柔道家達に贈るにふさわしい。
サクラソウにはこんな神話もある。
サクラソウはどの花よりも、茎頭にでた花弁が輪状に咲いていて、それが鍵束に似ているところから、ヨーロッパでは「鍵の花」と呼ばれている。ドイツの伝説・・・・・・
▼昔、ドイツのある田舎にリスベスという娘がいた。母は病で長い間、床にいた。春のある日、リスベスは母を慰めようと野辺にサクラソウを摘みに行った。夢中で花を摘んでいると、後ろから花の精が優しく声をかけた。リスベスが病の母のために花を摘んでいると知ると、花の精は自分の城に案内した。その城には扉には鍵がかかっていた。「そっとサクラソウを鍵穴に差し込んでごらん」 リスベスが花を差し込む中は目ヶ眩むほどの宝石に溢れていた。「すきなものを持って行きなさい」 花の精はささやいた・・・・・(「植物と神話」雪華社 より)
▼サクラソウのもうひとつの花言葉「神秘な心」。 一途な心や志が次の展開を生み、次の時代の鍵を開ける。果敢な武道家たちの物語とリスベスの伝説。サクラソウの周りをそれぞれのエピソードが意味をかもし出しながら回っている。
                  2003年4月30日        
トップページにもどります