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 軍服を着た大統領     2003年5月2日

 ボタン(牡丹)/ボタン科ボタン属。高さ1〜2mくらいの落葉低木。中国原産。日本に渡来したのは奈良時代で、平安時代にはすでに栽培されていた。園芸品がつくられるようになったのは江戸初期から。ボタンが中国から欧州に渡ったのは18世紀末。花言葉は、恥じらい・富貴。

▼ブッシュ大統領が空母エイブラハム・リンカーンの艦上にパイロット姿で現れる。
その出で立ちを見て「なんともわざとらいいなあ。そこまでやらなくてもいいのに」という声くらい恥じらいの国、日本では起こってもいいが、そんな反応もなくブッシュ大統領の戦闘終結宣言は流れていく。
 ....Major combat operations in Iraq have ended..In this battle,
we have fought for the cause
of liberty,and for the peace  
for the world.Our nation and our coalition are proud of this accomplishment...
yet,it is you,the members of the United States military,who
achieved it.Your courage,your
willingness to face danger for
each other,made this day possible.Because of you,our
nation is moresecure.Because
of you,tyrant has fallen,and Iraq is free.(Applause)...............
▼ 「
イラクとの主要な戦闘は終結した。・・・我々は自由と世界の平和のために戦った。・・・・諸君のおかげで、暴君の政権は崩壊し、イラク市民は自由になった・・」兵士たちの歓声を一身に受ける大統領は、まるでハリウッド映画「インディペンデンス・デイ」に出てくる大統領だ。演説はさらにノルマンデイ作戦、硫黄島の戦いを勝った勇気、そして敵を同盟に変えた良識と理想主義が、この戦いでも充分に発揮されたと謳いあげる。
▼やはり、大統領の「自由の帝国」への並々ならぬ使命感は変わることなく、ますます高揚している。世界に残る野蛮な国々を自由に満ちた文明国家に塗り替えていくんだ。イラクもかならず我々の思うような民主国家にする・・・・その楽観的展望の根っこにあるのが、かつて野蛮な独裁国家、日本を従順で穏やかな経済大国に変えた、という成功体験。我々は日本をかくも素直な文明国に塗り替えた・・・・そんなアメリカの言葉を聞くたびに、昔の日本のことを考え反発したくなる。江戸時代の日本、鎖国していたとはいえ、それぞれの藩で行われた独自の教育、産業育成、例えば大阪の米相場のシステムは今のニューヨーク証券取引所のモデルになっている・・・そのようなことをこの軍服を着た大統領は学んでいるのだろうか。猫の額のような狭い大地にしがみ付いて工夫の限りをつくして米の生産を続けた日本の農民の存在を知っているのか、瀬戸内の島々の段々畑に集約された知恵を知っているのか、彼ら先人達は貧しくても創意工夫にあふれ豊かな暮らしをしていた。そのことは明治維新直後に来日した外国人が一応に驚いている・・・・それらは皆、軍服を着た大統領に導かれるまでもなく、日本人の体内に蓄積されてきたのだ。
▼終戦になって、日本の庶民は戦争は真っ平ごめんだと痛感した。だから敵国アメリカに素直に従った。と、同時に、軍人は大儀、大儀と叫ぶばかりでいざと言うときは市民を助けることもなく逃げ出す信用置けないと悟った。だから平和憲法を積極的に受け入れた。生存のための強い本能から、アメリカを受け入れ戦後の日本は始まった。
▼しかし、それから半世紀以上たち、気がついてみれば、日本は、アメリカだけを見つめついていくこと以外に考えない「燃え尽き症候群」に陥っていた。

▼ブッシュ大統領はこのイラク戦争で、高度技術を駆使した外科手術のような手順で戦争を敢行することの旨みをまた覚えた。とにかく新しい手術を試してみたかった。まず麻酔をかけ相手を眠らせ、患部を狙い次々とハイテク機器を繰り出す。あっという間に手術を終え、「手術は大成功です」と宣言して去っていく。「自由への整形手術」、その超高速の手術の中では、医師団は、患者の存在やそれを見守る家族の存在などすっかり念頭から消し去っている。患者はただの病んだ肉体でしかない。そして日本は、「それはちょっと、やりすぎではないか」と思いながらも黙って従う。

▼アメリカとの関係を追うばかりの半世紀、日本は、周りの国々の中での自分の位置について考えることも放棄してしまった。かつて「大東亜共栄圏」という考えがあった。戦後、封印されたこの言葉をもういちど冷静に検証し、アジアの中の日本の位置や役割について考えてみたい。手術にもいろいろある。漢方を駆使した全く別の手法もある。そのことを思い出したい。そしてあらためて、アメリカとの距離について考えたい。

▼軍服を着た無邪気な大統領、ジュニア・ブッシュに東洋原産のボタンの花を贈りたい。ボタンの花言葉は「恥じらい」。派手な動きがあるわけでもなく主役が声をはりあげるでもなく淡々と風景を紡いでいくアジア映画も捨てたものではないことも知ってほしい。
                  2003年5月2日        
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