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     たんぽぽ        2003年4月28日

 
タンポポ(蒲公英)/キク科タンポポ属 今、日本中に広がっているのはセイヨウタンポポ。ヨーロッパ原産で明治はじめに渡来した。タンポポの名前は、種子につく冠毛が球状になる様子が、拓本に使うタンポに似ているところから付けられたというのが一般的。
花言葉は、真心の愛、神のお告げ

▼ハナニラの白い花といっしょにタンポポの黄色が際立っている。道端の偶然の造形はどんな庭師の技よりも長けている。春、ふとしたことから路傍に目を向けるとタンポポの黄色い花。タンポポは忘れかけていた時間と風景を喚起させてくれる大切な案内板だ。突然やってくるなんともいえない郷愁に、「ああ、自分はやっぱり、田んぼのあぜ道を駆けていた田舎の子なんだ」と40年も前の感覚を取り戻す。
詩人・坂本遼の「たんぽぽ」という詩集が好きだ。

          春     坂本遼
 おかんはたった一人 峠のてっぺんで鍬にもたれ
 大きな空に 小ちゃなからだを びょっくり浮かして
 空いっぱいになく雲雀の声を じっと聞いているやろで

 里の方で牛がないたら じっとひびきに耳をかたむけているやろで
 大きい 美しい 春がまわってくるたんびに
 おかんの年がよるのが 目に見えるようで かなしい
 
 おかんがみたい

▼故郷を飛び出し、都会で暮らす者にとって、タンポポは田舎のおふくろから届く便りに似ている。坂本遼はそんなモチベーションで詩集「たんぽぽ」を編纂したのだと思う。


   たんぽぽ     坂本遼

おら肺が弱いので 空気のんで
たんぽぽの冠毛(おばはん)を
ふくのや


冠毛は寒そうに首ちぢめて
仲良しそうに手つないで
春といっしょに
うれしそうにいってしまうのや





▼花が終わり次に来る、丸い毛玉の
ような、冠毛の発射台の造形も圧巻である。よくまあ、こんなに繊細で機能的な構造が出来たな、と見れば見るほど魅了される。一つ一つの種子の先につく毛に春風があたると、次々に種子は旅路につく。そしてどこか彼方の地面に着陸し、次の世代を創り出す。「弾き出された遺伝子」という言葉があるが、故郷を飛び出した者たちは、次の可能性のために新天地を切り開くのだ。最近出会った、タンポポを題材にした傑作は、シドニーオリンピックの女子マラソン前夜に高橋尚子選手が詠んだという短歌だ。

 




 
タンポポの綿毛のようにふわふわと
42キロの旅に出る
           
         高橋尚子






▼キク科らしい八重咲きの小菊のような黄色い花。一変して、シンプルにして究極の機能美を表現する毛玉の姿、そしてそこから旅立つ綿毛(冠毛)が風にそよぎながら新天地を探す姿・・・タンポポが見せてくれるそれぞれの幕劇は春という舞台には欠かせない。
                  2003年4月28日        
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