<最終更新日時:

  知的な振る舞い        8月3日

アガパンサス/ユリ科ムラサキクンシラン属の宿根草。その愛らしい花から、ギリシヤ語のアガペ(愛)とアントス(花)からアガパンサス=愛の花 となった。原産地は南アフリカ、現地では地下茎や根を煎じて妊婦の便秘薬として使われる。日本へは明治中頃に一種が導入され、ムラサキクンシラン(紫君子蘭)、アフリカンリリーと呼ばれた。花言葉はアバカンサス全般は「恋の季節」、「恋の便り」、「恋の訪れ」。青紫のアガパンサスは「知的な振る舞い」

▼ 花の戦略は実に知的である。それぞれが独自の昆虫を引き寄せる戦略をたて、あとはじっと待つ。・・

花の写真ばかりを撮っていると、ねらいを定めレンズを向けた花弁にそっと蝶が飛び込んでくれることがある。自分は蝶と同じ美意識なのかな、などと大それたことを思い愉快になる。

いずれにしても花は万全の策を施し、じっと蝶が飛来するのを待ちつづける。「知的な振る舞い」である。

▼北朝鮮の核問題。硬直していた交渉に一条の光がさした。一昨日、ロシアも含めた6カ国での多国間協議が今月末か来月上旬にも開かれることが決定したのだ。「対話と圧力」で北朝鮮の核問題に向う国際社会はつい先日までは「圧力」一辺倒だった。そこに一気に「対話」の風が巻き返した。前途は多難だろうが、水面下で万難の策をさぐり北の歩み寄りを辛抱強く待つ人々の努力が実を結ぶ予感はある。

▼北朝鮮の問題を観るにあたって興味深い記事がある。元NHK解説委員長で現在は日朝国交促進国民協会の理事をつとめる山室英男氏が6月、雑誌郷学44号に寄せた文章である。一部紹介する。
『 ・・・・(2000年)10月10日には彼(クリントン大統領)はホワイトハウスに北朝鮮の趙明録・国防委員会第一副委員長(委員長は金正日総書記)を丁重に迎い入れ、会談では北朝鮮での核・ミサイル問題、双方の首都での連絡事務所の開設、オルブライト国務長官の訪朝計画などについて話し合い、会談は「時にユーモアを含み、温かい雰囲気で、率直な意見を交換しあった」と言われます。趙氏は金正日総書記がクリントン大統領に宛てた、米朝関係改善への意欲を示した新書も手渡しています。(このような内容の新書を例えばイラクのサダム・フセイン大統領が、アメリカの大統領に送ったことはあるまいと思うし、この金正日氏の親書は当然、クリントン氏から引き継いでブッシュ大統領も目を通している筈だが、いまのところブッシュ氏の金正日氏に対する評価はウッドワード記者によれば最低のようだ) いずれにしてもこの趙訪米は、朝鮮戦争以降、最高レベルの米朝会談でした。
 その10日の夜は国務省のバンケット・ホールで趙代表団15名を主賓として盛大な夕食会が開かれ、この会に招かれた在米元韓国人の大学教授の話によると、アリランを初めとする朝鮮の民謡がナマ演奏で奏でられ、踊りも優雅に、あたかも米朝国交樹立祝賀のパーティと錯覚するほどだったそうです。
 それが今から二年八ヶ月前の米朝関係だったのです。その直後、オルブライト国務長官が訪朝し、年末のクリントン訪朝計画を協議したものの、北朝鮮は最終段階になっても相変わらずの原則論を繰り返し、瀬戸際外交をつづけて、米朝和解の歴史的な絶好の機会を逃した北朝鮮側の重大な外交的失敗は、同じ東アジアの平和を希う日本にとっても惜しいことでした。・・・』

▼ 二年八ヶ月前にこんな米朝の間でこんな情景があったとは驚きである。その後、大統領選挙でわずかな票差でブッシュ大統領が当選、そして9・11テロ、アフガン攻撃、イラク戦争とアメリカは強硬路線に明確に舵を切った。あの時、北朝鮮が柔軟にクリントン訪朝を受け入れていたら、歴史はどう転換していただろうか。その頑なな瀬戸際手法が北朝鮮を追い詰めたことには間違いない。

▼さらに山室氏の文章を続ける。『 北朝鮮の方針転換は意外に鮮やかでした。アメリカ大統領選挙の結果、ブッシュ氏の当選が決まった直後、こんどは日本人へのアプローチが始まりました。日朝首脳会談への瀬踏みです。森内閣のときです。急な話でした。政府は中川秀直官房長官が日本側の受け皿となったようです。外務省は丁度鈴木宗男宗男氏の事件の対応でにわかには動きづらい時でもあり、アジア大洋州局長の田中均氏らごく限られた人が担当しました。北朝鮮はブッシュ氏が大統領に選ばれれば北朝鮮に厳しい態度で当たってくると予想しての方向転換でした。そして2001年4月末小泉内閣の登場で、ようやく日朝首脳会談の姿がほの見えるという水面下の接渉が動き出しました。
 結果はご存知のとおり、いまや拉致問題が最大のネックとなりました。このことは日朝首脳双方の不在の意、見損じの失敗といっていいでしょう。・・・』(郷学44号より)

▼ ブッシュ大統領の登場で、北朝鮮は日本への急接近を試みる。これはまったく新たな展開である。その結果として実現した日朝平壌宣言の中で金正日総書記が拉致を認め謝罪したことは大きな意味を持つ。その後の拉致問題の展開については様々な議論があろうが、拉致の実態や覚せい剤問題がその後国民の側に露になったことは大きい。

▼ アメリカはブッシュ大統領であるかぎり「圧力」による強硬路線は変わらないだろう。その危機感が今、中国、ロシアを動かし、六カ国協議を可能にしようとしている。
 日本は拉致問題を具体的な交渉のテーブルに載せるための水面下の接渉は辛抱強く続ける。さらに核問題については被爆国としての立場を貫き、近隣諸国と協力して、朝鮮半島非核化共同宣言を現実のものとし、日朝平壌宣言の精神に基づき、北東アジア非核兵器地帯の創設に着手すべき、という道筋を明確に指し示すべきである。
  いずれにしても日朝平壌宣言を獲得しているという事実は重い。すべての交渉の原典を日本は手に入れている。

▼ さらに韓国の立場もこの一年で明確になった。
 今夜放送されたNHKスペシャル「核危機回避への苦闘 〜韓国 米朝のはざまで〜 」は、 核問題に対しての韓国の微妙な立場を鋭く伝えた快作である。
 50年前の朝鮮戦争は、朝鮮民族がアメリカ、旧ソビエト、中国という大国の思惑に翻弄され、同じ民族同士が殺し合い300万人の人々が犠牲になった。その悪夢を二度と繰り返してはならないという信念が韓国にはある。その上に立ち、強硬派のアメリカと関係を継続しながら北に対しても経済協力のパイプは断たない、という「微妙で危うい橋」を渡っている。
 NHKスペシャルの取材班は、ノムヒョン新政権の両腕ともいえるユン外交通商相とチョン統一相の取材に成功している。彼らトップの口から率直な朝鮮民族の胸の内が吐露される。特に番組最後のチョン統一相のインタビューは印象的だ。
 「遠く離れた国と違い、北の核開発問題は、韓国にとってまさに自分の問題です。水を一杯にいれてバケツを頭の上に載せて歩いているようなものです。小さな石につまづいたでけでも、バケツはひっくりかえって、水はこぼれてしまいます。朝鮮半島の平和を安定的に管理することが必要なのです。」 (チョン統一相)

▼ 六カ国協議が動き出す直前に、韓国の視点を日本の視聴者に明確に伝えた今夜のNHKスペシャルの意義は大きい。北朝鮮との間に横たわる難問の数々を短絡的、教条的にならずに一つひとつクリアする「知的な振る舞い」を韓国から教えられた気がする。

▼ 最後に山室秀男氏の言葉をもう一度引用する。

 『・・・・北は、最終的には南北協力以外には生きのびる道はない、と考えています。南もそのように信じています。朝鮮問題を考える際に私達にとって一番大事なことは、「朝鮮半島にはふたつの国家がある、のではなく、朝鮮半島にはひとつの民族が住んでいる」と考えることだと思います。』 (郷学 44号より)

  ※NHKスペシャル「核危機回避への苦闘 〜韓国 米朝のはざまで〜 」を見逃した方は
 コピーをお送りします。ご連絡ください。

                          2003年8月3日
トップページにもどります