悲しき会見       9月26日

ヒガンバナ(彼岸花)/ヒガンバナ科ヒガンバナ属。花が彼岸の頃に一斉に咲くのでこの名前がついたが、マンジュシャゲ(曼珠沙華)ともいう。マンジュシャゲとはサンスクリット語で「天上の花、赤い花」。昔から墓場に多いので「死人花」「地獄花」「幽霊花」とも言われる。英語では、spider lily(蜘蛛百合)と呼ぶ。彼岸花は夏から秋にかけて、先ず花茎が伸びて花が咲き、それから葉が出てくるというおもしろい性質を持つ。古い時代に中国から渡来してきた。
 デンプンの含量が高く、昔は水洗いして毒を除いてから食用としたそうです。中国から渡来した理由は、縄文時代に、飢饉の時に使う救慌植物だったからだと考えられている。花言葉は、悲しき思い出・恐怖・陽気な気分。

▼ 彼岸花は種子をつけることができない。染色体のまとまりが三組ある三倍体だからだ。種子が種をつけるためには、花粉(♂)と種子(♀)とに染色体を二分する必要がある。そして、花粉と胚珠とが受精することで、元の染色体の数になるのである。そのため、正常に種子を作るためには、奇数では都合が悪いのだ。だから三倍体の植物は正常に種子を作ることができない。
▼そのため彼岸花は球根が分かれて増えていく。増えた彼岸花はすべて親と同じ性質を持つクローンで、日本中の彼岸花は同一のクローンだと考えられている。全国各地、田んぼのあぜ道は河の土手に咲く彼岸花はかつて誰か人の手によって植えられたもので、遡れば縄文時代の同じルーツを持つクローンである。(出典「身近な雑草のゆかいな生き方(稲垣栄洋・草思社)

▼ 早朝、北海道で震度6の大きな地震があったきょう26日、夕方になって再び大きな衝撃が走った。巨人軍原監督が突然辞任を発表したのだ。その記者会見が異様だった。辞任の会見の場に原監督とともに渡辺恒雄オーナーが出席、さらに驚いたことに堀内恒夫氏も並び新監督として紹介されたのだ。今シーズン不調の巨人、原監督の去就について無責任なうわさがあったことは事実だ。しかし数日前渡辺オーナーは「続投さ。」と答えておりフアンもそれを信じていた。それがこんなに段取りよく次の監督が用意されているとは、原監督から最初に辞表を受け取った19日以降、すぐに後任の人選が始まっていたとしか考えられない。いや、もっと前から後任探しはおこなわれていたのかもしれない。

▼「この二年間を振り返って強く印象に残っていることは?」という質問に対して原監督はこう答えた。「今年はチーム状態が苦しかったが、どのように打破していい方向に持っていくか、選手とコーチみんなで話し合ったミーティングが一番印象に残っています。」 この言葉に原監督の哲学が込められており、選手の意思を尊重し選手と対等の立場で話し合い難局を乗り切ろうとする手法が凝縮されている。このやり方で原監督は一年目で日本一の座を手にした。わずか一年で、実にはつらつとした清々しい原・巨人軍が誕生した。
▼しかし、この原ワールドは渡辺オーナーやフロントの体質には合わなかったにちがいない。ここからは憶測になるが「原は優しすぎる。選手に甘すぎる。選手の言いなりになりすぎる。」という声が渦巻いていたのではないか。
▼最近、「原はカリスマにはなれない。」と言った渡辺オーナーの言葉に注目したい。これは単に今シーズンの不調に業を煮やして出た言葉だろうか。私は憶測する。昨年、就任した原監督が見せた手法は戦後の復興期を上り詰めていった渡辺オーナーの手法とは全く違うものだった。自分について来る部下を怒鳴りつけ彼らに滅私奉公を迫りそれでもついて来る奴を人事で手厚く処遇する、というのが高度成長型の手法だ。それに対して原監督は選手一人一人に歩み寄り彼らの要望に耳を傾けた。特に清原や江藤などのベテランのわがままにも寛容になることで彼らのやる気を引き出そうとした。このしなやかな民主的な手法を高度成長型の先輩達は苦々しく思った。
▼原監督にとって残念なことに一年目とは裏腹の不振が、「あいつは選手に甘すぎる。選手の言いなりだ。」という沸々した思いを増幅させ、「原はカリスマになれない。」という言葉に凝縮されているように思う。
▼一見、乱暴で豪放磊落だが、実は勉強家で大変な読書家・・・そういった意外性を持つ政治記者は可愛がられる。今月9日、チームの低迷に業を煮やしたオーナーが球団代表として送りこんだ三山英昭氏は、将来の社長候補と呼ばれている。1969年読売新聞社入社。政治部、外報部、ワシントン支局、90年政治部次長、91年秘書部長、95年政治部長・・・・・・ まさに渡辺氏の遺伝子を引き継ぐサラブレッドである。さらに、新監督になった堀内氏は現役時代には物怖じしない豪放磊落な性格から「悪太郎」「小天狗」といわれた。その反面、緻密な理論派である。この二面性こそ渡辺オーナーの遺伝子そのもので、現にオーナーは、皇太子夫妻が大リーグ観戦した折にその解説を任せるなど、ぞっこんであった。
▼新監督になった堀内氏は、選手に対して徹底して厳しくあたるであろう。そこに原監督との差別化を図ろうとする。そしてその手法こそ、渡辺オーナーらが慣れ親しんだ手法である。巨人がV9を達成した時代、日本は高度成長を駆け上っていた。巨人軍と日本企業に共通していたのが滅私奉公の思想である。組織のために忠誠を尽くし個を捨てる・・・・長嶋も王も、そして堀内も、このX9の戦士だった。彼らは今も当時の読売巨人軍の遺伝子の殻を打ち破れないクローン戦士である。渡辺オーナーもこのかつての栄光からいまだに抜け出すことができない。
そして、その宴が終わったあと遅れてやってきた原は、そんな高度成長の宴から弾き出された遺伝子なのかもしれない。そこに大きな世代間の溝がある。
▼豪放磊落である一方大変な読書家である渡辺オーナーは、さらに野鳥を写真に撮るという繊細な趣味も持つ。自宅の庭にやってくる野鳥をカメラにおさめるのを得意としている。しかし、彼は庭から大空へ飛び立つ鳥に焦点をあわせるレンズは持ち合わせていないのかもしれない。
▼多様性を持てないクローン、彼岸花。花言葉は、「悲しき思い出」「恐怖」「陽気な気分」と混沌としている。画一的に制御された花の中には複雑な多面性が渦巻いているということなのか。

                          2003年9月26日
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