<最終更新日時:

    サヨナラ ゲーム    10月23日

▼まるで共鳴しているように日本シリーズ、ワールドシリーズが交互に劇的サヨナラ・ゲームを奏でている。この原稿を書き始める直前、阪神が金本の劇的なサヨナラ・ホームランで、4時間10分の死闘を制した。シリーズ初の2試合連続サヨナラ勝ち、前日サヨナラ犠打を放った藤本を熱く抱擁した闘将・星野は、この日もホームインした金本を熱く抱きしめる。監督の全身からは厚いオーラが立ち昇っている。

▼1週間前、星野監督は日本シリーズを最後に勇退すると発表した。体調不良がその理由だったが、強い慰留を退けても勇退の決意を変えないその潔い姿が胸を打った。そして「日本シリーズ
では最高のドラマを見せる」と宣言をする清々しい姿を見ると、男が第一線を去るとき、このようでありたい、と痛感させられる。その散り際の美学にフアンはまたもや感動した。
▼今夜、弾丸のようなサヨナラ本塁打を放った金本は一年前、広島から移籍した選手だ。移籍するかどうか迷っていた金本は星野監督の一言で心を決める。「俺は迷った時には前へ出るぞ!」 移籍後の金本は、星野の言葉に呼応するようにチームを引っ張った。そして、シリーズ直前の潔い星野の勇退の言葉に呼応するように今夜、劇的なドラマを創造した。一人のリーダーの潔い言葉が、それに続く人々に連鎖し何か見えないものに火をつける。これが人の世の凄いところだ。
▼政治の世界では、昼間、二人の大物政治家が身の引き方についての会見を開いた。政治家達がそれぞれ分断された思いの中でバラバラに勝手な言葉を投げ孤独なゲームに埋没していることをあらためて見せつけられた。日本社会が築き上げたすれ違いだらけの組織とその中の個人の様を象徴しているようで滑稽でもあった。バラバラの楽器演奏からはなんのセッションも生まれない。
▼星野監督の熱い思いの周りで、コーチや選手がそれぞれの個性で即興音楽を奏で、それが監督自身にも「まるで夢のようだ」といわせる創造物を紡いでいく。潔い引退表明が歴史を変えたのだ。
▼一方、この日ワールド・リーグでは、大リーグ史に残る大投手、ヤンキースのロジャー・クレメンス投手が現役最後の登板を終えた。あくまで直球にこだわる自分の形を崩さなかった。最後の打者を150キロの速球で仕留めさっそうとベンチに引き上げる姿に人々は酔いしれた。クレメンス投手のサヨナラ会見は息子のケーシー君の言葉で締めくくられた。「僕のお父さんを20年間、応援してくれてありがとう。」

潔い生き様は、分断されることなく自然に人々に引き継がれていく。
サヨナラの意味は深い。

                          2003年10月23日
トップページにもどります