太古の記憶 11月10日
イチョウ(銀杏、公孫樹)/イチョウ科イチョウ属。雌雄異株の落葉高木。イチョウは1科1属1種という分類学上、大変めずらしい木である。
イチョウは1億5千万年以上昔の中生代・ジュラ期には種類も豊富でシダ植物などとともに全盛を誇った。その後、氷河期にはほとんどが全滅したがわずかな種が中国南東部・中国浙江省で生き残った。それが仏教の伝来とともに日本に渡来(平安時代という説もなる)、各地に広がった。現在、世界各国に見られるイチョウは日本に渡来した種の苗が広がったもの。
イチョウという名前の由来は様々だ。その葉の形が鴨の脚に似ているところから「鴨脚樹(ヤーチャオ)と呼ばれそれが転化したという説。葉が一枚であるためイチョウ(一葉)からきたというもの。漢名「銀杏(インキョウ)」からついたとされる説もある。学名Ginkgo biloba
Linn名は、銀杏の音読みGinkyoがケンペルの著書「見聞記」でGinkgoと誤植されたものを、リンネがそのまま用いた。「公孫樹」という字は、種実のギンナンが老木にならないとできない性質を、孫の代に実るという意味で使われるようになった。
葉は、葉脈が網状になっているのではなく、まっすぐな葉脈が並んでいる並行脈。
イチョウは裸子植物で、目立つ花はつけない。雌雄異株で雄花をつける木と雌花をつける木は別。受精は精虫によって行われる。花粉が風に乗って運ばれ(風媒)、雌花につくと花粉は発芽して発達し、2個の精虫を形成する。春に花粉が運ばれてきて、受精は9月に行われる。受粉から半年という長い時間をかけて受精がおこなわれる。植物が動き回る精子を持つことは極めて異例である。
樹となっているもののほとんどは雄株で、銀杏に養分を消費されてしまう雌株はなかなか巨樹にはなりにくい。
銀杏の強い匂いは、酪酸とヘキサン酸が主成分。ビタミンB6を分解する成分も含まれていて漢方として様々な効用がある。
銀杏は東京都の木・神奈川県の木・大阪府の木になっている。東京都のマークは銀杏の葉。いちょう全般の花言葉は、長寿・しとやか・鎮魂 。いちょう(木)の花言葉は、長寿。
▼イチョウは恐竜が全盛の時代、地球上に広く繁栄していた太古の巨樹だ。ギンナンの外皮の臭いは鳥による被食から種子の内部を守る効果があるそうだが、中国ではネズミ、日本ではタヌキがギンナンを食べることが確認されている。そこから考えて恐竜がギンナンを食べて糞と共に種子を蒔き散らしてくれる風景は充分想像できる。イチョウは恐竜によって地球上に生育域を広げていった。
▼そして恐竜が絶滅し氷河期がくるとともにイチョウも絶滅に瀕したたが、かろうじて中国南東部・浙江省に一種類が生き残った。その瀕死のイチョウを誰かが浙江省で発見し、日本に持ち帰った。一体、どんな人物が銀杏の実を袋にしのばせ海を渡ったのだろうか。
▼いったんは地球上から姿を消しかけたこの太古の樹を甦らせたのは人間の好奇心だった。人の好奇心と想像力は、時空を越えて様々な生命に新たな光りを与える。現在、世界に広がっているイチョウは中国から日本に持ち帰られ、この日本から世界に広がったものだ。
▼黄金色に色づく銀杏並木に魅せられて繰り出す大勢の人々。一人一人、はるか1億5千万年前の地球の風景を刻み込んだ遺伝子に導かれて体の奥深くの生命の記憶を辿っているのかもしれない。
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