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   去年見た花園         9月17日

◇ オミナエシ(女郎花)/オミナエシ科オミナエシ属。秋の花の代表のひとつ。日本をはじめシベリア、サハリン、中国、朝鮮半島など北東アジアに広く自生する。アワバナ(粟花)ともいうが、アワを炊き込んだ粟飯に花の色が似ていることから名づけられた。黄色の粟飯は白いご飯に対して女飯(おんなめし)といわれ、これが転じてオミナエシとなったという説がある。延喜年間(901年〜923年)のころから女郎花と書くようになったという。
同じ属の中にオトコエシ(男郎花)
がある。白い花を咲かせる。オミナエシ(女郎花)より強く丈夫そうに見えるからという。
 オミナエシ(女郎花)の花言葉は美人、永久、真実である。

◇マツムシソウ(松虫草)/マツムシソウ科マツムシソウ属。高原に秋の到来を知らせる。和名の由来には、松虫が鳴く頃花が咲くからという説、花が仏具の松虫鉦に似ているからという説、謡曲「松虫」にある松虫塚に咲く花のことだからという説がある。どこか毬を思わせる花の姿から玉毬花ともいう。別名、スカビオサ(西洋松虫草をさすことが多い)。英名、ピンクッションフラワー。

花言葉は、未亡人・恵まれぬ心・私はすべてを失った・喪失・再起、不幸な愛情・不幸な結合(英)、あなたは私を見捨てる(仏)









▼秋の高原ではっとする光景に出会う。草原を敷き詰めたマツムシソウの空色。その空の中を漂う雲のように黄色いオミナエシの花群れが現れる。二つの色の混生はとても偶然の産物とは思えない。
▼およそほめられることの多い花言葉の中で、マツムシソウに与えられた言葉は、余りにも過酷だ。「未亡人」「恵まれぬ心」「私はすべてを失った」「喪失」「不幸な愛情」「不幸な結合(英)」「あなたは私を見捨てる(仏)」 よくぞこれだけ不快な言葉を浴びせたものだ。草原で懸命に咲く姿のどこにこのような不吉な言葉が浮かぶ素地があるのか。その不吉な空色の中を水平に進む黄色いオミナエシの花雲に与えられた花言葉は、それに比べると美しい。「美人」「永久」「真実」 一つくらいマツムシソウに分けてほしいものである。

▼二つの植物が織り成す花園の写真は、9月17日に掲載したいと思っていた。そしてその横に
ぜひ添えたいと思っていた文章がある。昨年のこの日、平壌で交わされた日朝平壌宣言の全文である。朝鮮半島と日本の不幸な関係、それはもう半永久的に解消されないのではないかと思っていた。それはマツムシソウの花言葉「喪失」を連想させる。そして、マツムシソウの中を走る黄色いオミナエシの幸、それが日朝平壌宣言の言の葉である。この宣言を聞いたとき、一気に北東アジアは新しい時代に入るという気分が広がった。あの瞬間の高揚を思い出したい。あれから一年、もう一度、日朝平壌宣言を読み直そう。 

日朝平壌宣言

平成14年9月17日



 小泉純一郎日本国総理大臣と金正日朝鮮民主主義人民共和国国防委員長は、2002年9月17日、平壌で出会い会談を行った。
 両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した。

1.双方は、この宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし、そのために2002年10月中に日朝国交正常化交渉を再開することとした。
 双方は、相互の信頼関係に基づき、国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む強い決意を表明した。

2.日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
 双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。
 双方は、国交正常化を実現するにあたっては、1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこれを具体的に協議することとした。
 双方は、在日朝鮮人の地位に関する問題及び文化財の問題については、国交正常化交渉において誠実に協議することとした。

3.双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。

4.双方は、北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力していくことを確認した。
 双方は、この地域の関係各国の間に、相互の信頼に基づく協力関係が構築されることの重要性を確認するとともに、この地域の関係国間の関係が正常化されるにつれ、地域の信頼醸成を図るための枠組みを整備していくことが重要であるとの認識を一にした。
 双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守することを確認した。また、双方は、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。
 朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した。

 双方は、安全保障にかかわる問題について協議を行っていくこととした。

日本国
総理大臣
小泉 純一郎
  朝鮮民主主義人民共和国
国防委員会 委員長
金 正日

2002年9月17日
平壌

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▼読み返してみて、改めてこの宣言の大切さを思う。戦前、日本が行った朝鮮人の強制連行、戦後、北朝鮮がおこなった日本人の拉致、こうした両国の永遠に消せない汚点を両国が受け止め、未来に向ってお互い門戸を開いたこの宣言が調印されたことの意味は大きい。しかし、その後、両国の関係は、宣言に盛り込まれているものとは正反対の中にある。この宣言を現実のものとしたことに外務省はもっと自信をもっていい。これは地道な外交官の日常活動の成果以外にはもたらされないのである。しかし、その後、外務省は攻撃の刃にさらされ身動きのとれない状態にある。心配なのは、この一年、日朝の問題が拉致に特化され、マスコミのヒスリックは報道の中で、拉致家族の問題そのものが政治家の思惑の中でいびつな国内問題に摩り替えられてしまいつつあることだ。
▼一年たって、見えてきたことは、ヒステリックな北朝鮮批判では何も問題は動かない、ということだ。強硬な北朝鮮攻撃に乗った拉致問題は何も進展をみなかった。一方、北朝鮮の核問題は六カ国協議という場を得て、具体的な接点を見出しそうな情勢だ。平壌宣言で謳われている北東アジアの諸国の対話が進みつつある。この協議が成功すれば、中国、韓国、ロシアは北朝鮮への経済活動を活発にしていくだろう。北朝鮮と3国の関係が経済を通じて密接になっていく時、日朝関係は硬直したまま、取り残されてしまう可能性がある。

▼この一年、帰国した拉致被害者に圧し掛かるに日常的なストレスに政府はどれだけ応えてきたのだろうか。日々、浮かない顔になっていく拉致被害の表情を見ると、とても日常的な会話が政府との間で交わされているとは思えない。政府は少なくとも一日一回は彼らに電話して具体的な要望を聞き、実現する道筋を共に考えなければならない。「拉致はテロだ」というヒステリックな運動にすべてを押し付け地道な日常業務を政府が怠っているとしたらそれこそ糾弾されなければならない。
▼いま政府や外務省がおこなうことは、平壌宣言が謳っているように日朝国交正常化への懸命の模索をおこなうことである。それ以外に拉致問題の解決はない。その一方で、昭和14年から終戦まで行われた70万人の朝鮮人の強制連行という事実について、真摯に向かい合う姿勢を示し続けなければならない。これも宣言は謳っている。蓮池薫さんが北朝鮮に拉致された直後、強制連行についてさんざんオルグされる中で、「その罪滅ぼしに俺一人が拉致されても仕方ないのかもしれない。」と思った、と聞いた時には胸が痛んだ。政府が歴史の根源に向かい合わず不作為を決め込んでいると、決まってそのしわ寄せが個人にやってくる。

▼淡く虚ろなマツムシソウのブルーの中を流れるオミナエシの黄色、偶然生まれた二つのなんともいえない混成からなる花園、その風景を目撃した時の一瞬の喜びをいつまでも胸にしまっておきたい。ちなみに「美人」「永久」「真実」を花言葉に持つオミナエシは日本、朝鮮半島、中国、シベリア・・・と北東アジアに咲く花である。
                          2003年9月17日
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