君達の初夢    2004年1月4日  



■ プリムラ / サクラソウ科の宿根草。     原産地は北半球に集中しており、野生種でも500種類以上あるという。数段の花輪のように茎を取り巻いて咲くプリムラ・マラコデス、ポッテリと花束のように集まって咲くプリムラ・オブコニなどが愛されている。
 欧州ではプリムローズと呼んで、若さと希望のシンボルとされ、この花の花弁でつくったクリームは小じわをとる効果があるといわれている。
 プリムラの名は「1番の」を意味する「プリマ」というラテン語からきている。バレエで主役を務める「プリマドンナ」の「プリマ」と同じ。


▼ 故郷の駅舎に置かれたプランターは柔らかな薄紅色のプリムラで賑わっていた。改札口を出ると、父が微笑みながら立っており、私の姿を見ると手をあげて駆け寄ってきた。寝巻きの上にコートを引っ掛けたような井手達の父に息子はやや驚き、戸惑いもしたが、父の思いは痛いほどわかった。昨年、思わぬ大病で死線をさまよった父は、その気力で回復し無事新年を迎えることができた。皆が帰ってくる正月をこれほど待ちわびたことはなかったにちがいない。








▼久しぶりに四国に住む弟夫婦と甥、九州に住む叔母も集まり食卓で父を囲んだ。
  おせち料理を食べ始めるとすぐに、弟夫婦が小学3年生の甥に言った。「おじさんにアレを見せてあげないと・・」 
 昨年、甥っ子の描いた絵が高知市の小学生2万人の中から最優秀に選ばれたのだ。その喜びを弟は何度もメールに書いてよこした。おそらくその絵のことに違いない。



▼予測通り、甥っ子の絵が披露された。「身内びいきだなあ。」と失笑を買うのを承知で感想を言うと、ダイナミックで見事な絵だ。巨大なカマキリに子供たちが乗っている。向こうでは蝶に乗った少年が通り過ぎてゆく。絵には甥っ子のこんなキャプションが添えられていた。
 「ぼくは、虫がすきなので、大きな虫の世界をかきました。虫がすきなわけは、虫にはしょっかくがあり足がするどくてかっこいいからです。ぼくのゆめの世界は、虫にのってにじの空をとんでみることです。」
 自分が空を自由に飛びまわるものとして鳥ではなく虫を選んだのがいい。そのダイナミックなミクロレンズはあっという間に鳥の世界の空間を通り過ぎ、さらにミクロの複雑怪奇な昆虫界に飛び込んだ。おそらくそこは、この人間サイズの世界とは比べものにならないほどの別世界に違いない。
▼この惑星を生きる生物たちの進化の潮流の中で、昆虫は、我々人間のような脊椎動物とは全く異なる道を選んだ一群だ。体の真ん中に一本の柱、脊椎を持つ我々はそのまわりに様々な臓器を加えてゆき巨大化、複雑化の道を選んだ。その極限が恐竜であろう。体の真ん中に脊椎を持つという意味では人間も同じで鳥もまた同じ世界に住む仲間である。ところが昆虫は、体の中を空洞にして外に骨を持つという外骨格という戦略をとった。我々とはまったく違うシステムなのだ。昆虫は実は異星人ではないかという学者もいるが、その言葉も納得できるほど昆虫はわれとは違う。外骨格というシステムは巨大化には不向きだが、小さくなることには最適なシステムだった。昆虫は我々とは全く逆の軽薄短小というシンプルな戦略を選択した。今、世界で一番小さな昆虫は体長わずか0・2ミリのハチである。想像を絶する小さな世界に住んでいる。
▼わが甥っ子が昆虫の利点としてあげている「触角と足」は昆虫世界の象徴である。昆虫は、その複眼や触角によって我々と全く違う情報社会に生きているはずである。また、生きる時間のスピードもぜんぜん異質のものであろう。そこは、別の惑星なのだ。その星へ冒険に乗り出した甥っ子の想像力はさすがである・・・・




▼食事を早々に終え、甥っ子は座敷で父に飛びかかり二人はじゃれあいはじめる。孫の激しい攻撃を交わしながら反撃する父を見て、ようやく引っ付いた傷口がまた開いてしまうのではないか、と心配するが、父はお構いなしだった。二人はまるで同じ年の友達のようにはしゃいでもつれあっている。甥っ子は空間を飛び越え、昆虫の世界の住人になっているのだ。父は時間を飛び越え、70年も昔の少年に戻ってしまった。時空を越えた二人の少年が発光しながら宇宙を転がっている。


▼ 故郷の駅舎に咲いたプリムラの花、
   花言葉は、少年時代、青春、少年時代の希望、青春の美しさ・・・          
2004年1月4日