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  気品あるスーツ姿   月16

ヤマブキ(山吹)/
バラ科ヤマブキ属。
細い枝が多数でて、前年の枝から短い側枝を多数出し、その先に花をつける。

しなやかな細い枝が風に揺れる様子から「山振(やまふり)」と呼ばれていたのが後に「山吹」に転訛したと言われる。かつてヤマブキは恋の花だった。太田道潅はにわか雨にあい蓑を借りに農家に入り、その時娘が差し出した八重のコトブキを見て、その意味がわからかなった。それを恥じて学問に目覚め、大成したという。
 コトブキの花言葉は、気品・待ちかねる・崇高。

▼雨上がりのどんよりとした公園は、あざやかなオレンジ色の山吹の一人舞台だ。花言葉どおりその姿には気品があふれている。
▼朝、大学3年生の長男がグレーのスーツを着込んで家を出かけるのを見た。はっとするほど様になっていた。今年に入って就職活動が本格的にはじまったようだ。インターネットで情報を得て、エントリーシートを書上げ面接に向う。その繰り返しが続いているようだ。どんな会社を受けているのか、父は知らない。一度、メールで「就職はどうなった?」と尋ねたことがある。メールでというのが情けない話だが、私が単身赴任して以来、長男との会話は途絶している。その途絶にはなにか私の気付かないきっかけがあったのか、また私は知らないうちに息子を傷つけてしまったのか、悩むこともあったが、父親との会話を絶った以外は、長男は順調に学業やアルバイトに専念しているようだ。
▼「一体、どんな会社をまわっているんだろ。」と妻に聞く。妻は「知らないわ。自分で聞けばいいのよ。」と答える。直接聞こうとするが、息子は父親の顔を見ると不機嫌な顔をして自分の部屋に入ってしまう。そこでメールとあいなった。
▼長男のメールの答えは予想以上に早く来た。短い文章の中に長男の決意が読み取れた。「・・・・・・なんとか自分でやってみるから、そっとしておいてください。」 この文章に納得した。

2004年、景気は回復しつつあると聞くが、企業の人件費抑制の傾向は変わらない。いや、日本企業独特の仕組みを国際標準に構造改革するために、という大義名分に乗って声高になった終身雇用を見直す機運は、未熟な若者を会社で時間をかけて育てるという公人としての覚悟を減衰させてしまった。今後、景気がよくなっても多くの企業は人件費を抑え、足りない分はパートやフリーターで補う、という方針を変えないだろう。必要な時に自由にリストラできる調整弁として人材を位置づけているようにしか思えない。よって、毎日、会社回りをつづける若者たちの前途は多難だ。若者たちの数は減っているのに、一人一人の若者の個性の重みが急激になくなっているのではないか。一部の極上の人材を除いて多くの若者が数値化され個性を切り捨てられてはいないか。
 わが会社で若い管理職が大量のエントリーシートを読みながら「最近の若い人は面白みにかけますね。」と言って次々と選別していく光景をみると、複雑な気持ちになる。

▼久しぶりに長男のスーツ姿を見て、様になっていると思った。もし私が面接官だったら、その井手達を見て、将来への可能性を予感し、すぐに採用するだろうに、と思うのは、まさに親ばかであろう。親として、就職に有利になるようなことは何も教えられなかった、面接官が目を輝かせて飛びつくように育てられなかったことには後悔している。
 しかし、息子にこれだけは伝えておきたい。君の将来は君自身だ。企業が君を選ぶのではなく、君が企業を選ぶのだ・・・・・そんな空論ばかり言うからオヤジは嫌いだ、とまたそっぽを向かれるのだろうが、君がほんとうにこれだとやってみたい、おもしろそうだ、と直感し、しっくりくるものを、どこまでも捜し求めてほしい。お金を稼ぐためには仕方ない、と妙に妥協し枯れてしまうのだけはやめたほうがいい、自分にしっくりくるものにめぐり合えるまで、企業を選別し続ければいい、きっと、君の誠意に共感するところが現われる。企業に主導権を託す必要はない。君の人生の主役は君自身なのだから。そのスーツ姿のように気品と誇りを持って会社回りをしてほしい。

                      2004年3月16日