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   東宮御所とパークハイエットホテル                       5月11日











シロツメグサ(白詰草) / マメ科の多年草。ヨーロッパ原産でホワイト・クローバーとも呼ばれる。江戸時代、オランダの船がガラス製品を運んできた際に、そのパッキングとしてシロツメクサを乾燥させたものを用いた。その際、種子が混じっていて日本に根付いたといわれる。白詰の詰はここからきた。学名のトリフオリウムとは「三つ葉」の意味。ところが時折、四つ葉のクローバーが見つかる。これは幸福のシンボルと言われる。ホワイト・クローバーの蜜は蜂蜜の中でも高級品である。 花言葉は花言葉は、私のことを思ってください・感化・約束・

フランシス・コッポラの娘、ソフイア・コッポラ監督の新作「ロスト・イン・トランスレーション」を観た。アカデミー賞候補の快作という触れ込みに乗って観てきた友人たちは「期待はずれの薄っぺらい映画だ。」「いたたまれずに40分で映画館をでてきた。」などと酷評する。さらにあの沢木耕太郎も「アメリカ映画の底の浅さを象徴している。」と酷な映画評を掲載したものだからますます分が悪い。しかし、息子達高校生の世代には面白いと評判になっている。昼間、ポッカリ空いた時間に映画館に飛び込んだ。
▼サントリーウイスキーのCM撮影のために東京にやってきた中年の映画スターと、カメラマンの夫に同伴して東京に来た新妻、二人のアメリカ人の東京を舞台にした恋物語である。アルフアベットのない、原色ネオンと喧噪の大都会を呆然としてさまようエトランジェとしての二人、その感覚は我々が見知らぬ外国の町をあてもなく歩く時の気分と相似形だ。スケッチのように点描されるエキゾチック・トウキョウのエピソードは監督のソフイア・コッポラが10年前、モデルとして東京に来た時の経験をなぞっている。そのとらえ方が皮相的で、いまだに日本をそのようにしかつかめない米国人にげんなりする観客もいるのだろうが、東京をひとつのワンダーランドに見立てそのエキゾチックな遊園地で中年の男と若い女のどこにでもありそうな淡い恋物語がスケッチされていく運びは肩がこらなくていい、と思った。
▼原色と喧噪と子供っぽい町で疲れた二人は偶然、町の中心にそびえる高層ホテル「パークハイエットホテル」に宿泊している。そのホテルは喧噪とは別世界の“宮殿”である。
▼シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)は、ト大学の哲学科を卒業してすぐにカメラマンの彼と結婚したものの忙しい夫の帰りを待つだけの生活に大きなあせりと不安を感じ眠れない夜を過ごしている。ボブ(ビル・マーレー)は高額の出演料に釣られて来日したものの日本人とちぐはぐなコミュニケーションしかとれないもどかしさの中で居心地悪い不安の中にいる 二人は高層階 のラウンジで語らう。。「私、眠れないの」「僕もだ」「この不安は年をとれば直るのかしら。」「直らない。」
コッポラは東京を単なるエキゾチックな舞台にとどめるのではなく、二人の男女が置かれている空疎な状況の象徴に仕立て上げているように思う。躓いて挫いた自分足の小指のことを気にかけ言葉の通じぬ病院を駆け回るボブの姿は女性の一つの癒しなのだろう。一方、電話口で妻がする会話はカーペットの色決めなど事務的なことばかり、それに反して目の前のシャーレットが見せる虚ろな人生への不安な表情にボブは忘れかけていた心根を思い出す。パークホテルのまわりに広がる空疎な異国の風景、それは二人を疎外して無関係に存在する状況である。

▼映画館を出た。外の世界は、新しいニュースにざわついていた。皇太子妃の健康がすぐれず、一人で欧州訪問をすることになった皇太子が衝撃の会見をおこなったのだ。会見は、年金未納や民主党、イラク虐待問題に熱くなったいた世間の目を一気に東宮御所に引き寄せた。皆が唖然とした皇太子の発言、「雅子にはこの10年、自分を一生懸命、皇室の環境に適応させようと思いつつ努力してきましたが、私が見るところ、そのことで疲れ切ってしまっているように見えます。それまでの雅子のキャリァや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です。」 その場に居合わせた記者団は目を丸くしたにちがいない。前代未聞の発言である。
▼この発言を受けて、一気に皇室の映像がワイドショーの主役に躍り出た。街角インタビューが流される。多くの女性達が皇太子の言葉を讃えた。 妻のことを思い、あえて宮内庁はじめ取り巻きを批判した皇太子を見て、こんな言葉を夫に一度でもかけたもらいたいものだと妻達はいう。男達の勝手な論理に振り回されながらも職場で懸命に働くキャリア・ウーマン達は、皇太子妃の才能をつぶしてしまう皇室の保守性に怒った。
▼「外交 という分野では、外交官として仕事をするのも、皇族として仕事をするのも、国のためという意味では同じではないでしょうか。」「皇室にはいられるには、いろいろな不安やご心配がおありでしょうが、僕が一生、全力でお守りしますから。」 皇太子妃にこの言葉で求婚した皇太子は、今、その責任を果たそうと懸命な思いでいるにちがいない。そして、その思いをも塗りつぶす、二人を孤独にする状況が相変わらず横たわっているのではないか。
▼東京砂漠の中心、東宮御所の中の二人が、今、観てきたばかりの映画の中の、パークハイエットホテルの二人に重なった。

                      2004年5月12日