真夏の夜の夢      15

     





















▼さてさてみなさん、これから書きなぐる2004年の真夏の出来事、それはまるでおもちゃ箱をひくり返したような不可解珍妙かつ爽快、しかも超気持ちいい瞬間もあり、そしてどす黒い悪夢の苦い味も加わり、いくつもの真夏の物語のなかでもそう味わえない醍醐味に溢れていること請け合います。
▼1945年8月13日、時間を一気にタイムスリップして59年前、この国は激しい空爆に襲われる暗黒の夏でした。敵機襲来の恐怖に震え漆黒の空をまもなく迎えようとしていた昼下がりの日本各地。このとき沖縄は2ヶ月前の地上戦に敗れすでに米軍に占領されていました。
▼、再び一気に時間を59年後に駆け上り2004年8月13日沖縄宣野湾市。普手間飛行場に隣接する沖縄国際大学の校舎上空に一機のヘリが旋回しながら降下してきました。その時、大学の5号館では数百人の学生が夏休み集中講義を受けグランドにも大勢の学生がいました。学生達が突然飛来し迷走するへりを呆然と見上げていると、へりは5号館から80メートル離れた3階建ての1号館のひさし付近に接触して芝生に落ち、炎上したのです。ヘリは米海兵隊大型輸送ヘリコプターCH53D(乗員3人)でした。幸い大学生など校内にいた人には被害はありませんでしたが、乗員一人が重傷しました。
▼一体、そのへりは何をしていたのか、単なる訓練中のミスで片づいてしまうのだろうか、そう思いはじめた矢先に、巨人軍の渡辺オーナーが突然の辞任会見、秋のドラフト会議で獲得を目指していた明治大学投手にスカウトが200万円の現金を手渡していたことの責任をとっての辞任だといいます。数日前から右翼団体の動きが気にはなっていましたがそれにしても唐突な先手でした。
▼渡辺オーナーの人生について資料を引っ張り出そうとしているうちに迂闊にも沖縄国際大学の学生達がこれからどう動いていくのか、仕掛けを造っておこうとした思いつきを忘れれてしまいました。
▼渡辺オーナーについての資料整理をするうちにテレビ画面に大写しにされたのはアテネ五輪開会式の中継映像でした。なかなか洗練された演出に感心しているうちに渡辺オーナーのことはすっかり忘れてしまいました。
▼沖縄の事故のことはすっかり空白の彼方へ痴呆し、ましてや同じ時間、イラク中部のイスラム教シーア派聖地ナジャフに立て籠もる強硬派の指導者サドル師が民兵組織「マフディ軍団」に米軍との戦闘を続けるよう呼びかけたことなど頭の片隅にも飛び込んでこない完璧な神経麻痺に陥っていました。
▼さて、朝になればもうヤワラちゃん、ヤワラちゃんの金メダル万歳、それにしてもすがすがしい女性だなあ。
59年前の8月14日、日本各地の地方都市への空爆は頂点に達していました。59年後、日本は48キロの小柄な女性柔道家の活躍に心を沸きたたせ、深夜に入り、眠られない感動の中で8月15日終戦の日を迎え、さらに1千万人の国民が韓国の純愛ドラマ「冬のソナタ」を午前2時から観ました。
▼8月15日の朝刊。予想通り、ヤワラちゃんの笑顔がカラー写真で一面を飾りました。さて、サドル派民兵はどうなったのか、その記事は2面に250字程度、14日、イラク暫定政府とシーア派強硬指導者サドル師派の民兵組織「マフディ軍団」との間で進めていた停戦交渉は決裂したそうだ。15日にはイラクで初の国民会議が開かれます。その開催前の解決を目指した暫定政府の努力は失敗した形になってしましました。オリンピック停戦などありえない21世紀の戦争の形、なんだか戦争の形がどんどん野蛮になっています。
▼そういえば沖縄のヘリコ事故、沖縄県警は捜査に乗り出したのだろうか、米軍への抗議はどのようにおこなれたのだろうか、自分たちのキャンパスに米軍のヘリが墜落するという最悪の事態に直面した学生達の若い感性はこの事故をどうとらえどう動こうとしているのだろうか、記事を探しましたが朝刊には何も載っていませんでした。
▼15日、沖縄の事故現場、県警は日米地位協定にもとづき米軍に現場検証への同意を求めましたが明確な回答はまる二日たっても得られません。現地では米軍がテープをはって封鎖しています。それを乗り越えようとした荒井外務政務官が拒絶されました。「ここはイラクではない。現場での管理権は米側にはない。」(荒井外務政務官) さてさて首相はどう動くのでしょうか。夏休みに入る前に、毅然とした抗議をしてほしいものです。
▼沖縄国際大学とつながる普天間基地、さらにそことつながるイラク。15日、バグダッドでは全土から千数百人の代表を集めて初めてのイラク国民会議が開幕しました。イラクの民主化にとって大事な一歩となるはずの国民会議ですが、街では爆音が響き、米軍のナジャフヘの空爆も終わる気配はありません。イラクはますます最悪の状況になっています。現地に入った国連職員たちはどう事態の収拾にあたっているのでしょうか。
▼国民会議が騒然とするさなか、アテネでは競泳100メートル平泳ぎで北島康介が金メダルを奪取しました。勝利の雄叫び、そして最初の一言「超気持ちいい!」いや、爽快だなあ。これで明日の朝刊も一面は北島選手の雄叫びのカラー写真でいっぱいになるでしょう。そしてその写真のスペースに入ってもよかった諸々の記事は二面への回されるのでしょう。
▼真夏の夜のテレビジョン。あらゆる映像が瞬時に伝えられる21世紀の風景。目の前を通り過ぎるいろんな感動や怒りがあまりにもスピーディなので、気がついたらそれに追いつけずヘトヘトになって訳のわからない不眠症と不感症に陥っていきます。
                      2004年8月15日