協調への道 “囚人のジレンマ”再録    

                   2月11


▼もう10年も前になる。ミシガン大学の政治学部で「囚人のジレンマ」という授業をきいたことがある。講師はロバート・アクセルロード博士。
エゴイストとは、常に他人を押し退けて生きてゆくものなのか、エゴイストが自発的に協調することはありえないのか、エゴイストたちは、中央の権力に強制されなければ、協調などしないのだろうか・・・・・・冷戦時代の緊迫した政治関係をウオッチングしてきたアクセルロード博士の問題意識はこの一点にあった。
▼ゲーム「囚人のジレンマ」はそうした中から生まれた。独房に入っている囚人が二人、それぞれ別個に事情聴取を受けている、という設定である。
 ルールは単純だ。参加する二人のプレーヤーは、それぞれが「協調(=C)」と「裏切り(=D)」という二つの選択肢を取ることができる。プレーヤーは互いに次に相手がそんな行動に出るか知らないままに、二つの選択肢から一つを選びださなければならない。
 両者が「協調」のカードCを出した場合は、お互いが3点を得る。一人が「裏切り」のカードDを出し、もう一人がCを選択すると、Dを出したほうに5点、Cを出したほうは0点となる。双方がDを選択するとそれぞれ1点しか得点できない。プレーヤーはカードを選択した直後に、相手がどんな選択をしたかを知ることができ、そこから次の選択を考えることができる。
▼1978年、博士はゲーム理論の専門家14人に招待状を出し、ゲームを開始した。そして、この選手権で見事一位を獲得したのがトロント大学のアナトール・ラポート教授の戦略だった。その戦略とは「初回は協調のカードを出し、二回目以降は相手が協力すれば協力し、相手が裏切れば裏切る、といった具合に相手がその前にとった行動をまねる」という非常に単純なものだった。選手権は、その後も参加者を増やし、世界規模でおこなわれたが、いずれも、このシンプルな戦略が勝利した。
▼ゲームの結果を受けて、アクセルロード博士は結論を導き出した。「成功の秘訣は4つあります。第一に、先には決して逃げない、ということです。そうすればトラブルは防げます。第二には、挑発ができるということです。相手が逃げたのを受けてこちらもすぐに逃げる。これは相手の次の行動への挑発になるということです。第三の特徴は、寛容だということです。もし敵が協力をしたいと思い直すと、こちらも協力し、よりお互いの協力を深めることができるのです。そして最後は、単純だということです。もし頭の切れる相手なら、流れをすぐにつかむことができ、自分が協力的になれば相手も協力的になることに気づき、最終的に協力を引き出すことができるのです。」(アクセルロード博士)
▼10年前、この「囚人のジレンマ」というゲーム理論を取材中、積年の仇敵のイスラエルとPLOの和平交渉が急速に進展した。イスラエルのラビン首相の「私たちは敵対する関係だからこそ和平が必要なんです」という言葉は実に印象的だった。

▼アクセルロード博士の理論は、政治学者以上に、生物学者に大歓迎された。ダーウインの進化論では強いものが勝つという競争ばかりが強調されている。しかし、生物の世界では個としては弱いものが互いに共同体をつくり共生しながら生きていくというケースが多い。個としては強くてもそのシステムをもたなかったがために絶滅してしまうケースが多いのだ。
 たとえば、鳥類のミドリツバメや魚類のトビウオは、襲ってくる捕食動物の見張りを交代でしあう。誰だって見張りをするより、餌を食べていたい。しかし、もし見張りを交代すれば、他の者も交代して協力してくれるだろう。その反対に、もし自分ばかり食べてばかりいたら、他の者は交代したがらず、集団生活は成り立たないだろう。こうした共生関係は、じつに緊迫したサバイバルゲームの果てに行き着いた、生存のための最大の戦略なのである。


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▼10日、北朝鮮が「6者協議への参加を無制限に中断する」と表明するとともに、「核兵器製造」も宣言した。.これは明らかにピョンヤン宣言に違反している。せっかくできた6各国協議という枠組みを踏みにじった暴挙だ。日本・北朝鮮のさわやかなサッカーゲームの余韻が一気に吹き飛ばされた。これで国内では北朝鮮への経済制裁という論議が一気に沸騰するだろう。もし日本が経済制裁に踏み込めば6カ国協議の枠組みは後退するだろう。
 日本はどう動くか。この問題に関しての小泉首相の「ねばり強く対応する」という姿勢を評価している。ぜひ、この深刻な問題を関係国との連携を密ににてねばり強く対応してほしい。
急いで、2003年の2月に書いた「囚人のジレンマ」の記述を引っ張り出した。もう一度、アクセルロード博士の理論を反芻しておきたいと思う。
  第一に、先に決して逃げない。第二に相手が逃げたのを受けてこちらもすぐに逃げる。これは相手の次の行動への挑発になる。第三は、寛容。もし敵が協力をしたいと思い直すと、こちらも協力し、よりお互いの協力を深める。そして、最後は単純であること。


                      2005年2月11日