迷路と暴走と惨禍  2005年4月26

 ハナニラ(花韮)/ヒガンバナ科イフェイオン属(またはユリ科イフェイオン属)別名、アイフェイオン、イフェイオン、西洋アマナ、ブローディア。
 花は美しいが、傷つけるとネギ臭があるところから花韮と名付けられた。星の様な花びらが特徴で、英語ではspring star flowerと呼ばれている。
 花言葉は悲しい別れ・星への願い

▼山田太一脚本の「迷路の歩き方」というドラマを見たのはいつだったか。中井貴一が演じる主人公は東京近郊を走る電車の運転士である。ドラマは電車がトンネルに入った際、運転士がボーっとした幻想に襲われるシーンから始まる。トンネルを抜けると駅がある。ふと我にかえったものの、ブレーキを踏むタイミングがずれた電車は駅の停止線を1メートル越えてしまう。若い相方の車掌がすかさず車内アナウンスして電車はバックする。ダイヤには異常はない。乗務が終わり報告をする前に、若い車掌は「きょうのオーバーランは報告しません。。せっかくの伝説を崩したくないので。」と運転士にささやきかける。中井貴一演じるベテラン運転士はこれまで一度もオーバーランををしたことがない、という伝説がある。それを失いたくなく口裏を合わせたかったのだ。しかし、運転士はその申し出を拒否し、はじめてのオーバーランを報告する。
▼なぜ、運転士はオーバーランしたのか?その背景となる家族の風景が、引きこもりの息子のことを中心に描き込まれていく。見えてくるのは誰もが背負う時代の憂うつでもある。トンネルに電車が飛び込んだ際、人生の峠を越えたベテラン運転士をその憂うつが茫漠とした幻想となって押し寄せる。運転手は後日、再び5メートルのオーバーランをし現場を離脱する・・・・

▼大型連休を前にした春うららかな日常がとんでもない大事故により台無しにされた。昨日の朝、JR福知山線で宝塚駅同志社大学前行き電車が脱線(というよりその惨状から見て転覆といったほうがいい)した。死者は現時点で、57人、マンションにぶつかりブリキ板のようにへしゃげてしまった車体を見ると犠牲者はさらに大幅に増えそうである。
▼事故直後から様々な情報が出たが、最も気になるのは、その電車の運転士が、直前の伊丹駅で40メートルものオーバーランをしていたことだ。そのために1分30秒の遅れが出た。それを取り戻そうと25才という若い運転士は躍起になり、半径300メートルのカーブを100キロを超えるスピードで飛び込んだ。
▼相方の車掌は40才を超えるベテランであった。二人は、40メートルのオーバーランを8メートルということにしようと口裏を合わせた。若き運転士は以前にも100メートルのオーバーランをしている。今度、処分されれば取り返しがつかない。8メートルでは処分は受けない。ベテラン車掌は若い運転手の将来を慮ったのか、それとも単なる保身だったのか・・・・・・あとはなんとか1分30秒の遅れを少しでも取り戻したい。運転士に1分30秒の遅れが重くのしかかっていた。
▼今回の大惨事の原因を運転士の問題だけに還元するのは余りにも短絡すぎる。こうした事故の背景には複合的な要因が想像を超えるタイミングで重なり合っているものである。その一つ一つを解きほぐし、二度とこうした事故が起きないような教訓を多角的な視点で引き出さなければならない。それには時間が必要だ。
▼そのことは承知の上で、
「新幹線の運転士」になりたいという夢を持ちJRに入った鉄道少年が、その後どのような迷路を彷徨い暴走電車を走らせるにいたったのかを丹念に辿る必要を私は感じる。そこからは、私たちが生きる時代共通の隘路が見えてくると思えるからだ。

▼ 奈落の悲しみとやり場のない怒りのカオスの中に突然放り込まれた遺族の人々に心から哀悼の意を表したい。

                      2005年4月26日