誠実な人々    2005年5月8日

コデマリ(小手毬)/バラ科シモツケ属。中国大陸中部原産の落葉低木。日本への渡来は古く、江戸時代以前にはスズカケ(鈴懸)と呼んだ。コデマリの名前は江戸時代初期につけられた。花は白色で、7〜10ミリの五弁の小花が多数集まってほぼ球形の花序となり、枝上に連続して並ぶ。
 花言葉は努力する。

▼コデマリの白い花序が綺麗に撮れた。小さな花々が寄り沿いながらやがて手鞠のようなまとまりを奏でる姿は清楚で優しい。周りに一斉に咲き誇る赤いツツジの花群れの片隅で、その謙虚さがいっそう可憐に誘いかける。そのスポットで、今年も私はツツジの花園よりも小手毬の花群れを選んでシャッターを切った。

▼団地の管理組合の仕事がまもなく終わる。ひょんなことから初めて顔を合わせた10人の男と2人の女、次々と起こる高層団地での難題珍事に一喜一憂、悪戦苦闘した1年だった。今朝は9時から団地の管理事務所で今年度最後の理事会があった。その席上、挨拶に立った、理事長のAさんが、話の途中で思わず声を詰まらせた。一年、この厄介な仕事に身を粉にして一番取り組んだのが理事長のAさんである。Aさんを先頭に「そこまでやらなくても」という声があるのも知りつつ、団地の仕事に没頭した。仕事一筋にきた者達はたかが団地の仕事でも一旦始めたら、どこまでも真剣になってしまう。そんな無器用さが私たちの世代の性だ。声を詰まらせたAさんの胸の内が横にいた我々、メンバーにも痛いほど伝わってきた。
▼Aさんは大手のITメーカーの通信部門も責任者である。中国市場の開拓の責任者として政府を代表する仕事も手がけている。その精力的な仕事の手法を団地の様々な難問解決に持ち込み格闘し続けてきた。私は広報担当の理事として、Aさんをサポートした。いち早く「安心・安全・クリーン」という大方針を掲げ、あとは目の前に起こる出来事や苦情の数々を先送りせずに、すぐに誠意を持って解決しようとAさんは動いた。その小さな対応の数々が一年たてば、「安心・安全・クリーン」という抽象的な言葉に実を与え血を通わせ、成果をもたらす。教えられることの多い一年だった。
▼夜、管理事務所での打ち上げが行われた。この幹事を引き受けたのはSさん。会社を経営しているSさんは、監査役として団地の運営の数々に、実に適切、理にかなった意見を述べて、理事会にいい緊張感を与えてくれた。そのSさんが買って出た宴の幹事ぶりがいかにもSさんらしかった。会費2000円でおさめるために、つまみの数まで詳細に書いたメモを配り買いに行く店までをテキパキと指示して皆を動かした。さすが経営者だと皆で感心する。国家公務員、薬剤師、経営者、弁理士・・・・まったく別々の人生を歩んできたものが団地生活の細々とした問題で結びついた一年だった。
▼会計担当理事、Kさんの酒を飲むピッチがあがっている。数日前、決算報告の数字の間違いが指摘され、Kさんを中心に皆で朝方まで修正検討した。会社でも経理のプロであるKさんは「いや、ご迷惑をおかけしました。申しわけありませんでした。」と恐縮して酒をついでまわるがその表情はすがすがしかった。一仕事終えたという爽快感に溢れている。やがて、Kさんは気持ちよさそうにいびきをかいて床に転がった。皆で担いで家まで送り届ける。まるで学生時代のコンパのようで、たまらない。ささやかな仕事だったかも知れないが、それぞれの持ち味を発揮して自分らしく働いた1年だった。白い小さな小花が群れなしやがて一つの花のような秩序をつくる、今、満開の小手毬。花言葉は「努力」「誠実」。  

▼私もすっかり酔っぱらって、家に帰ってバタンキュー、眠りついた。しばらくして、電話がなった。理事長のAさんからだった。「最後の広報誌の原稿を今、メールで送りました。よろしく。」とのことだった。さっそく、メールを開いて感心した。あれから帰宅して書かれたものだろうか。しっかりとした文章で今年度をしめくくる挨拶が書き連ねてあった。広報担当の私は、突き動かされるようにして、最後の広報誌の作成に入る。酔いはすっかりさめてしまい、ちょっともったいない気もしたが、Aさんのいつもながらの熱意におされて、徹夜の作業を続ける気分は心地よい。

                      2005年5月8日