ニューオリンズ 讃歌
               2005年9月2日   

夾竹桃(きょうちくとう) Nerium oleander  キョウチクトウ科キョウチクトウ(ネリウム)属

葉が竹のように細く、花が桃に似ているところから中国で夾竹桃と名付けられ、これを音読みにして和名にした。原種は地中海から南アジアに向けて3種類が分布。そのうちのインド原産種が江戸時代末期に渡来した。現在はこのインド原産種と、地中海沿岸原産のセイヨウキョウチクトウの二種類。花言葉は、危険・気をつけて・恵まれた人・注意・友情・用心・油断大敵。 (参考 花言葉 in てぃんくの家)

▼ビリー・ホリデーには夾竹桃がよく似合う。1947年のハリウッド映画「ニューオリンズ」。ニューオリンズの歓楽街のささやかな黒人達のラグタイム音楽がやがてジャズとしてシカゴで花開き、さらにニューヨーク、世界へと育っていく物語をニューオリンズ出身のビリー・ホリデー、ルイ・アームストロング、さらにミード・ルクス・ルイスなど豪華なミュージシャン総出演でつづる贅沢な映画だ。その中で、ビリー・ホリデーが歌う「ニューオリンズ」。歌詞に出てくる夾竹桃の艶やかさを、いつかきっと写真で表現したいと思っているが、なかなかその花には出会えない。
  ♪ ニューオリンズを思う気持    ちがわかるかしら
  ♪ 夜も昼も寂しくて その思     いは次第に強くなるばかり     ・・・・・
  ♪苔む蔦や松の木が懐かし     いツグミがよく鳴いていた 
   ミシシッピー川の流れを眺め   てみたい・・・・・
  ♪ 6月の夾竹桃を夢に見ると    すぐに帰りたくなる
  ♪ ニューオリンズを思う気持    ちがわかるかしら  
        心を置いてきたの

  ♪ 実はそれだけじゃない 
忘れられない人がいる                       ♪ ニューオリンズよりも 

  ※※※ ラグタイムは、19世紀末から20世紀初頭に掛けてアメリカで流行した音楽の名前。黒人のダンスの伴奏音楽や、酒場で黒人が演奏したピアノ音楽が起源であり、白人の客に受けのいいマーチなどの西洋音楽に黒人独特のノリが加わり、シンコペ-ションを強調した初の軽音楽になった。演奏楽器は主にピアノで、その他にバンジョー、マンドリンや管楽器などの小編成バンドがラグタイムを奏でた。 ※※※

▼ 映画「ニューオリンズ」は1917年のニューオリンズのストリートビル、ベイジン通りから始まる。その一角賭博場に隣接する酒場から聞こえてくるラグタイム音楽、、ルイ・アームストロングが仲間とコルネットを奏でている。この歓楽通りは黒人達にとってはパラダイスだが、白人社会からは白い目で見られている。ラグタイム音楽も当然、公には認められてはいなかった。ビリー・ホリデーは郊外の白人の屋敷のメイドである。仕事が終わるとベイジン通りにやってきて、サッチモの楽団をバックにブルースを歌う。映画の主人公はこの通りの賭博場の親分、“ベイジン通りの王様”と呼ばれている。彼は白人だが、賭博場の一角で行われるサッチモらの演奏の良き理解者だった。
▼映画のクライマックスは、ベイジン通りが白人社会からの批判を浴び、閉鎖されることになる場面だろう。黒人達は着の身着のまま、荷造りをして通りを追い出されていく。その時、彼らはビリー・ホリデーのブルースを歌いながら、サッチモら楽団の演奏に続いて、通りを行進して街をでていく。うら悲しい行進である。 
 ♪ ニューオリンズを愛する女はみなストーリービルに住んでいる。
 ♪ ブルースを歌うのは皆を楽しませるため 世話になったから
 ♪ それなのに法は奪ってしまったこんな楽しみを
 ♪ お巡りが我々を追い出してストーリービルはおしまいよ
 ♪ 蒸気船か列車ででていくわ
 ♪ 各駅停車でね 
 ♪ 道は閉ざされて もう帰ることもできないわ ♪帰れない
 ♪ 切符が買えなければ線路を歩けばいい
 ♪ 不平を言っても始まらない 青空もやがて冷たい雨に
 ♪ 今日はお別れを 楽しい日々にさようなら


▼ ニューオリンズを追われたサッチモらは“ベイジン通りの王様”とともにシカゴに移り住む。この地でラグタイム音楽はジャズという名称を与えられ民衆の圧倒的な支持をえる。そしてニューヨークへ!そして世界の人々から圧倒的な支持を得ることになる。もちろん、彼らを疎んじる白人達の姿は消えていた。

▼2005年9月2日のニューオリンズ。カトリーナ被害の写真(ワシントン・ポストより)(クリックで次へ)

 ニューオリンズの街は壊滅した。取り残された黒人達が油の海をかき分けながら街から逃れようとしている。「水中にはかなりの数の遺体がある、屋根裏に取り残されて亡くなった人も多い。」とニューオリンズ市長が先ほど会見した。アメリカのテレビ局がその被害の惨状をめまぐるしいカットの応酬で伝える。2万人が避難しているドームの競技場が映し出された。次の瞬間、ドームの外でコルネットを奏でる黒人男性の姿が映し出された。その曲名は「ニューオリンズ?」 確認する間もなく、そのカットは数秒で切り刻まれ、あわただしいリポーターの中継映像に切り替わった。

                      2005年9月2日