ボケ桜     2005年10月20日  

十月桜(じゅうがつざくら) Prunus × subhirtella cv. Autumnalis PrunusSanguisorba officinalis

バラ科サクラ属

 秋、季節はずれに咲くサクラ。十月頃から咲く始めるので十月桜という。・花弁は八重で、白、または、うすピンク色。 ・全体のつぼみの3分の1が10月頃から咲き、 残りの3分の2は春に咲くので「二度桜」とも呼ぶ。 同様に秋から冬にかけて咲く桜が「冬桜」。 似ているが、花弁は十月桜は八重で冬桜は一重。 十月桜も含めて、秋から冬にかけて咲く桜のことを 総称して「冬桜」と呼ぶこともある。 花言葉は、純潔、精神美、淡泊

▼人がまもなく始まる紅葉の季節を今か今かと待ちこがれる時に、その公園にひっそりと咲く季節はずれの桜の花が愛おしい。誰も期待しないのに、まるで寝ぼけた顔で場違いな時に思わず躍り出てしまって後に引くに引けなくなって、咲いてしまう。当然、人はその花の下で宴を開くこともなく通り過ぎる。桜は春に決まっていて、それ以外に咲いても人々の視野に入らない。だから、せっかく勢いづいて花開いてみたものの、機先をそがれて、満開になるまでのエネルギーは萎えてポチポチ咲いて、ひっそり枯れていく。そんなボケ桜が愛おしい。

▼企画の相談がある、と後輩がやってきた。なかなか、斬新で面白い。「いい企画だなあ。」と興味を示すと、最初はおっかなびっくりだった後輩の表情が一気に晴れた。「本当に?」「ああ、面白い。」 ほっとして気持ちが和んだのか、鬱積した思いを一気にはき出すように、長い提案説明が始まった。その生き生きとした説明に、ますます、面白い企画だと思う。心の底から面白いと思う。だからどんどん話が弾み、提案説明はますます熱を帯びる。しばらくして、後輩はふと我に返ったように、こう言った。「具体的に動きますよ。」「ああ、いいなあ。」「本当にいいんですね。」「ああ。」 「途中ではしごを外さないでくださいよ。」
▼どうも、後輩達の私に対する評価はこういうことになっているらしい。「あの人は、最初は調子いいが途中ではしごを外されることがあるから注意した方がいい。」だから、あいつがすぐに「面白いねえ。」と言っても真に受けずに冷静に対処するように、という賢明なアドバイスがあったのだろう。
▼かつて、地方局の管理職として勤務したことがある。私の前任者は、カミソリのような切れ味を持つ実にシャープなプロであった。その見識と直感力は傑出している。よって、若手が自分の企画提案を通すには大変なエネルギーがいった。投げかけられる鋭い質問のシャワーにたいていの若手は萎えてしまい怖じ気づく。しかし、この難関を突破して見事、提案が採択されると、先輩はとことんつきあい、企画が成就するまで、しっかりと面倒を見る。そんな男気のある仕事師だ。それに比べて、後任の私は全く対照的に写ったらしい。持っていった提案は何でも「面白い。」と言ってすぐに通ってしまう。大変な驚きを持って私は受け入れられた。皆が次々と懸案の提案を持ち込んた。そしてその数だけ提案は採択された。しかしそのうちにこんな評価になる。「あの人は、なんでも“いいねえ”と言うが、実は“どうでもいい”んじゃないのか。」 私の場合は、提案は通しても後のフオローが淡泊、結局、提案通したものの助けが何もないので大変な思いをする、ということに気付く。そうして、やがて提案は出なくなってしまった。へたなものを提案してしまえばとんでもない苦労を背負い込むことになる、ということで自主規制が始まったらしい。

▼自己弁護すれば、心の底からに「あなたの提案は面白い」、と思ってしまう。思慮と人生経験が浅いため何でも驚いてしまうのだ。しかし、これまで「途中でハシゴを外した」と思ったことはない。ただ、提案を通したらは、「あとは自分でやったら。」という醒めた気持ちになる。「仮に失敗しても、やり直せばいい。」という逃げ口上をいつも用意している。つまり、いい加減なのである。おっと、これでは自己弁護にはならないな。
▼「こりゃあ面白い!」とすぐに動き始める若手は愛おしい。あとで苦労するかもしれないのに、そんな先のことは考えずに、すぐに飛び出していく。そして、大変な難題を抱え込んでしまって、七転八倒している、そんな姿が愛おしい。


▼「おい!春だぞ。」といわれて、「こりゃ、大変だ。」と回りの様子も見ずにすぐに花開いてしまったボケ桜。「あれ、様子が違うぞ。」 大丈夫、春になったらもう一度咲けばいいだけの話だ。

                      2005年10月20日