遠花火
       2006年7月22日 

                  

  鷺草(さぎそう)  

 ラン科ミズトンボ(ハベナリア)属
  学名のHabenariaは、ラテン語で「手綱」を意味するが、葯の形に因む。湿地に生える。白く広い唇弁は左右に多数切り込む。それを鷺の翼に見立てた。白鷺城で有名な姫路市の市の花。
 

花言葉は、しんの強さ・発展・名伯楽

▼最期まで、あきらめることなく闘いつづけた君にふさわしい花として、この白い翼を持つ花を選んだ。その花言葉も君の人生をよく顕している。



▼君の妻は、凛とした一輪の花のように弔問客の前で、こう言い切った。
 「私にとって、あの人は、夫でもあり、親友でもあり、同志でもあり、そしてなにより人生の師でもありました。19歳から一緒にいて、あの人は私に色々なことを教えてくれました。
 これまで、私は、あの人に頼りっきりでしたが、これからは、あの人から学んだことを糧に、私は自立していきます。」 
 
▼毅然とした母の言葉を横で聞いていた長男は、その時、静かな笑みを浮かべ頷いた。最期の瞬間から、母のそばに寄りそい、その震える背中をゆっくりとさすり続けた息子達にとって、この母の力強い宣言はどれほどうれしかっただろうか。
 父を失い、夫を失った最も過酷な時空の中で、どこまでも律儀さを忘れない君の家族の姿を、そばで見ていた私たちも誇りに思った。 



▼野辺の送りを終えた後、君の兄さんが挨拶をした。
 兄さんには今回初めて会った。そしていっぺんにその誠実な人柄が好きになってしまった。危篤の知らせを受け君の故郷から上京してきた兄さんは、弟の喪失を悲しむ間もなく、馴れない東京で慌ただしく式の準備や仕切に追われた。君たち兄弟は5年前、両親を失った。そして、今度は弟の喪失、どんなに無念であろうか。しかし、兄さんはどこまでも冷静に誠実に式次第を進めた。そして、その最後、皆の前で、静かに語った。
 

「父が亡くなった日はちょうど、町の花火大会の日でした。花火を見ながら、弟と“父を送ってくれているようだね。”と話したのを覚えています。そして、偶然なんですが、きょうの夕方、近くの多摩川で花火大会が行われるのを知りました。」
 兄さんはそう言って、弟の遺骨を抱いて戻る時、ふと浮かんだ一句を披露してくださった。

 遠花火 

遺骨を抱く 手のぬくみ



▼この数日間、君の親族の人々とお会いし、あらためて思う。
君ほど律儀で裏表のない人間を僕たちは知らない。
               
            


(※花火の写真は「花火写真ギャラリー」から転載させていただきました。)

2006年7月22日