芥川竜之介「侏儒の言葉」を読む D
2006年2月1日
「侏儒の言葉」は必ずしもわたしの思想を伝えるものではない。ただわたしの思想の変化を時々窺わせるのに過ぎぬものである。一本の草よりも一すじの蔓草、ーー、しかもその蔓草は幾すじも蔓を伸ばしているかもしれない。 芥川竜之介
小児
◇ 軍人は小児に近いものである。英雄らしい身振りを喜んだり、いわゆる光栄を好んだりするのは今さらここに言う必要はない。機械的訓練を貴んだり、動物的勇気を重んじたりするのも小学校にのみ見うる現象である。殺戮をなんとも思わぬなどはいっそう小児と選ぶところはない。ことに小児と似ているのは喇叭や軍歌に鼓舞されれば、なんのために戦うかも問わず、欣然と敵に当たることである。
◇ このゆえに軍人の誇りとするものは必ず小児のおもちゃに似ている。緋おどしの鎧や鍬形の兜は成人の趣味にかなったものではない。
勲章もーーーわたしには実際不思議である。なぜ軍人は酒にも酔わずに、勲章を下げて歩かれるのであろう?
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