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       この惑星での生き方 @

        2008年1月10日            

 ▼15年ほど前の1年間、地球の物質循環のことばかりを考えて過ごした幸福な時間があった。 何人の科学者の話を聞いただろうか。そのプロセスは、「海からの創世」(NHK出版)として残せたが、この取材の最後に行き着いたのが、左の写真の不思議な生き物だった。

▼南太平洋のパラオの湖に不思議なクラゲがいる。かつての造山運動と浸食とにより、海とつながる小さな塩湖ができた。その湖に餌がなくなったとき、クラゲは不思議な道を選択した。触手部に藻をつけはじめたのだ。
▼日中、クラゲは水面にあがり、360度ゆっくりと回転する。藻(シアノバクテリア)は光合成をし、クラゲはそこから栄養分を得る。夜になるとクラゲは一五メートル下の湖底に沈む。そこは富栄養化の進んだ嫌気的な環境である。そこでクラゲは藻の成長に必要な窒素を吸収する。動物と植物が見事に融合したシステムがそこに完成している。

▼マネーという巨竜に乗って膨張するクローバリズム、世界はあっという間に呑み込まれてしまった。その激流の中で、見失ってはいけないもの、それをこの不思議なクラゲが具現している。老子が唱えた「鶏声国家」、朝、鶏の声が聞こえる範囲ですべてが循環する暮らし、膨張する一方のネッワークの中に、こうした小さな系の循環を無数に築き、重層的な仕組みを作ることが、この惑星を生き生き存続させる上で、今、最も大切なことだと思う。単一系のシステムがいかに脆いか、歴史が証明している。
     

2008年1月10日