草霊 2008年 6月21日
4. 二升のガス釜
露草・鴨跖草(つゆくさ) Tradescantia spp.
ツユクサ科
道端にはえる一年草。別名アオバナ(青花)、ボウシバナ(帽子花)
夏、日の出とともに咲き、昼にはしぼむ。
花の青汁は、友禅の下絵描きなどの染料に用いられる。花弁は3枚ですが、上方の2枚は大きく青い。
雄しべは6本、上方の3本は、花糸が短く、目立つ黄色の「π」字形の葯をもち昆虫の目を引く役目を果たす。下方には、長い花糸で楕円形の葯をもつ雄しべが2本あり、雌しべとほぼ同じ。最後の1本は中間の位置にあり「人」字形の葯をもつ。
花言葉は、小夜曲・尊敬・わずかな楽しみ。
▼ 空屋となった実家に姪っ子一家が住んでくれることになった。籠もった部屋の空気が再び巡りはじめるようでほっとしている。
▼若い家族が生気を注いでくれることと引き替えに、一人暮らしの母の家は凪ぎの波が引くようにゆっくりと様相を変えていく。母の回りを囲んだ品々が静かに役目を終える。
▼メモ魔だった母は、部屋のあちこちの広告紙や手帳に自作の俳句や日々の出来事を走り書きしていた。その多くはダンボール箱につめ持ち帰った。いずれ、句集でも出せればと思っている。
亡くなる数ヶ月前の走り書きにこんなものがあった。忘れないために転載しよう。
二升のガス釜
久しぶりに倉庫に入った。
片隅の大きな風呂敷に包まれたガス釜が目に止まった。なつかしい人に出会ったようだった。
風呂敷を解き、静かに蓋をあけた。 中から、色々な思い出が湧き出た。
二升の大きなガス釜。
40数年前のこと、当時、我が家では5人の高校生を預かっていた。
我が家に住み込み昼間は私たちの書店で働き、夜は定時制高校に通った。
我が家の店もやっと軌道に乗り始めた頃だった。
5人の男の子、私の子も男の子、9人の大家族だった。
毎朝6時にガス釜のスイッチを入れることから、私の一日が始まる。
朝食がすむと、テーブルの上にはカチャンカチャンと音を立てて並ぶアルミの大きな弁当箱。
いまのように弁当屋さんも総菜屋もなくみな手作り、若かったといえ、毎日、よくやった。
私は一人で当時の自分を褒めてやる。
しばらく、楽しいこと苦しいこと、釜の中からわき出した思い出に浸った後、
ナイロン風呂敷に再び包み、もとの位置におさめた。
私の人生の大きな励みとなった、私の大事な宝物、「二升のガス釜」、
私が生きている限り捨てることはない。
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