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          白い簾
          2009年11月18日

                     

▼今年も公園に練馬だいこんが干された。この時期、練馬では農家が収穫した練馬大根を干したくあんにする作業が始まる。

▼葉を切り落とした大根を縄で縛りおよそ二十本づつ一組にして吊す。水分の少ない練馬大根はたくあんに最適、二週間ほど寒風にさらした後に、米ぬかに漬け込み、年明けに出荷する。




▼毎年、光が丘公園で開かれるJA農業祭のために、その様子が披露される。誰が名付けたのか「白い簾」といわれる大根の列が冬の斜光にあたって美しく輝く。

▼ウイキペディアによると、練馬大根の栽培は江戸の元禄時代にはじまり享保の時代には各地に普及していたとのこと。神奈川県特産の三浦大根は、三浦半島の地元の大根と練馬大根をかけ合わせたものだそうだ。



▼水分が少ないためたくわんに適し、大根おろしにも最適な練馬大根だが、大きな欠点がある。その形だ。首と下部は細く、中央が太いということがあり、収穫で練馬大根を引き抜く際、非常に力が必要になるのだ。ある調査によれば、練馬大根を引き抜くには、青首大根の数倍の力が必要であるという。その為、高齢の農家への負担が大きいという。

▼そのためか、今、練馬大根を収穫する農家は10軒ほどしかないそうだ。効率化を追い求めるマーケットの論理の中で、この練馬名物も風前の灯火ということか。しかし、考えてみれば、この効率化一辺倒の思考方式が、地域から個性を奪い果ては産業を奪ってしまったことに間違いはない。

▼西日を浴びて「白い簾」が一際鮮やかに輝く。子供達が大人の手を引っ張って「光る延べ棒」をさわりにやってくる。微笑ましい風景が次々とやってくる。単なる効率化では片づけられない喜びを、この江戸時代に生まれた特産物は、今なおもたらしてくれるのだ。この付加価値を大切に評価しないと、あらゆる仕事から、労働から、喜びや誇りが消えてゆく。

▼今度、暇が出来たら、練馬大根を引き抜きに行ってみたい。そこには、練馬だいこんを引き抜く名人がいるにちがいない。並の人には大変な重労働の現場には、必ず、それを見事に極めた職人がいるものだ。こうした存在を産み出すところに人間の凄みがある。




                     2009年11月18日                  
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