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          六花と梅
          2010年2月2日

  ▼「今朝、梅林公園の白梅が一斉にひらきました。」

大人げない報告だが、久しぶりに朝の散歩に胸が躍った。
 夜、メジロを呼び寄せるためにその香を冷気の闇に漂わせる白梅の横を,綿菓子のような六花がしんしんと天から舞ってくる。純白の結晶の花が舞い降りると、白梅の花弁の白も、なにやらくすんでしまって遠慮がちに主役の座を譲る。


▼東京は久しぶりに雪景となった。散歩する人々は、朝日に映えて変幻する六花と梅の饗宴を楽しみながらゆっくり歩く。

▼六花(ろっか):ふわふわと舞う雪が六花と呼ばれるようになったのはいつごろからか。

 雪の結晶が六角形であることからその花の名前を得た。
 ふわりふわりと闇に舞う六花は静かに梅の枝におりたり咲き始めたばかりの梅の花を包む。

▼ 昨年12月18日の読売新聞「言の花」によると、雪は「六花」という名前の他に、天から舞い降りふんわりと白い花びらを咲かせるという意味から「天花」(てんか)という名前も持つという。
 (てんげ)と読めば、仏教で天上界に咲くといわれる花のことを指す。また、山に積もった雪が風に飛ばされて、晴れた日にちらちら舞う様子は「風花(かざはな)」と呼ばれる。

▼遙か天上からこぼれ落ち、はらはらと風に漂う花吹雪、風花たちよ。
されど君たちの多くは大地に舞い降りる前に闇の中に溶けて消えゆくはかなさよ。
わずかに残った花弁たちがあの梢の間隙に静かに身を寄せているのだ。

▼ほどなく、夜が明け東の光が木々の梢を照らし出すとき、君たち氷の花弁は銀色に輝き放ち、辺り一面を天上の花景色に染めるだろう。

▼咲いたばかりの白梅はあっという間にくすんでしまい、紅梅のまわりを包んだ白いベールはピンクの光を反射して、紅梅の花に恥じらいの初々しさを加えていく。

▼そしてまもなく氷の花園に幕が下りる時がくる。
高く昇った東の光に、六花はひれ伏しながら形をうしない、儚い追憶の中に命を閉じる。

▼溶けて消えた枝の間から、真珠のような白い輝きを放つのは、すべてが儚く消えた跡から天上に新たに捧げるのは、あの白梅の蕾、蕾、蕾。
そうだ、まもなくまた春がやってくる。

▼未来への確信だけを遺して、天から舞い降りた六花はこうして
はかなく消えてゆく。




▼香を追って、光とともに、メジロがやってくる。何事もなかったかのように蜜吸う、彼等の一日がまた始まる。
いや、枝に降り立ったメジロが一瞬、たじろいだように見えた。いつもと違う六花のかすかな姿に思わずたじろいだように見えた。その新しい花は強い蜜を出すこともなく、彼等に媚びる事もせず、ただそこにあり、、いつのまにか溶けて消えて行く。関係を持とうと擦り寄りもしない孤高の花に、そのメジロが一瞬、たじろいだように見えたのは、おそらく錯覚だが、今朝の冷気は、そんなところに私を連れていく。

                     2010年2月2日                  
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