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 道草 「君の成人式 (下)」
                2003年1月14日



▼ その瞬間がすぎると、まるでベルトコンベアーに乗ったようにすべてが動きはじめた。その日の夜、東京から到着した長男は嗚咽した。父親が仕事を口実に親業を放棄した我が家にあって、義父は父親がわりを引き受けてくれた。常に普通であることを好み、孫たちとも淡々と接し声を荒げて怒ることはなかった。静かな日常の流れを好んだ義父だった。
▼翌日、妻と次男、三男がやってきた。玄関口で3人の気配がした時、長男は「ついに来たか」と呟いた。その思いが痛かった。妻は冷たくなった父の顔に両手をあてて涙にくれた。次男と三男もいつまでも肩を震わせていた。その時、これは今でも信じているのだが、義父が笑った。ほっとしたように笑った。
▼儀式に向かってすべてがベルトコンベアーに乗ったように進んでいった。その中で、驚いたのが長男のテキパキとした身のこなしだった。何日間かの儀式の流れの中で、長男が大人びていくように思えた。死とは逝くもののためにあるのではなく、残されたもののためにあるのではないだろうか。告別式の弔辞を詠むように指示をした。それも固辞することもなく素直に長男は皆の前に立った。「おじいちゃんを嫌いになったことは一度もなかったよ。」自然体で切々と語りかけた。
▼あれは義父が遺してくれた長男への成人の儀式ではなかったのか。今、そう思う。あれから1年、今年長男は新しい背広を着こんで成人式にでかけていった。しかし、君にとっての成人式は1年前のあの出来事の中にあったのではないか。
▼きょうは義父の命日。
 早春の南房総半島から義父が送ってくれたストックの花束、花言葉は、豊かな愛、絆、未来を見つめる・・・・
                          
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