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 道草 「世界でひとつだけの花」 
                         2003年3月23日


▼街で行進にであった。家族連れ、若者、思い思いのプラカードを持ったしなやかな行列が通り過ぎていく。行進の中から歌が聞こえる。SMAPの「世界でひとつの花」が、最近の反戦の運動の中で自然に歌われている。声高でない、その自然体が確かに心地よい。・・・・・そうさ僕らは世界に一つだけの花 一人一人違う種を持つ、その花を咲かせることだけに一生懸命になればいい・・・・・・

▼忘れられないテレビドキュメンタリーに「サラエボの光」(NHKスペシャル)がある。戦火にさらされ瓦礫の街となったサラエボを画家の平山郁夫さんが訪ねる、その姿を追った番組である。
▼番組の中に一組の夫婦が登場する。夫婦の家は砲弾に晒され崩れ去った。その瓦礫の山に毎日、、二人は通ってくる。かつての庭にバラを植え、その世話をしにやってくるのだ。戦火が街を襲う、ずっと以前から、夫婦のリズムの中に花を育てるという日常があり、それを淡々と紡ぐ暮らしがある。その普通の暮らしこそが幸福の実相にちがいなく、それこそが一番守りたいものなのだ・・・・・・黙々とバラに水をやる夫婦の風景をカメラは暖かく謙虚に映し出していた。
▼番組スタッフは後日、夫婦の育てたバラが花開いているのを確認するため再訪し、その一輪の花の姿をカメラにおさめ紹介する。ゆっくりとした時間の流れとともに淡々と人生を紡いでいければこんなに幸せなことはない。「サラエボの光」はささやかな人々の願いを、自然への優しいまなざしを散りばめながら静かに描いてくれた。

▼SMAPの「世界でひとつだけの花」はそんなささやかな願いを自然な語り口で歌にしている。それを口づさみながら、ゆっくり街を行進する若者のセンスは真っ当である。若者の感性には確かな真実を掴み取る先見性がいつの時代にもあるのだろう。

▼空爆続くバグダッド。その中でも、花に水をやる日常を大切にする人々がいるにちがいない。ささやかな日常があればいいのだ、大儀や正義は信用しない、ただ、季節が巡ってくれば花が咲くように、そんな確かな幸せを大切にしたい。

▼寂しかった公園にハクモクレンが花開いた。花言葉は自然の愛、その清楚な開花に勇気づけられる。これでなんとか明日も職場へ行く元気がでてきそうだ。

 「正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば敵にも見方にも買われるであろう。正義も理屈をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。」 
                                         (芥川龍之介)        
                     2003年3月23日                  
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