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2014年05月07日

●賢治の学校に咲く野花


ムラサキサギゴケ(紫鷺苔)/ゴマノハグサ科サギゴケ科 田んぼの畦など、すこし湿ったところに見られる多年草。花期は春から夏。根もとの葉の間から高さ10?15センチの花茎をのばし、淡紫色?紅紫色の花をまばらにつける。花冠は唇形で長さ1.5?2センチ。上唇は2裂、下唇は3裂する。雄しべ4個と雌しべは上唇に沿ってつく。柱「頭に触れると上下に分かれていた花柱の先が閉じ、しばらくするとまた開く。花の中央の黄褐色色の部分に毛が生えている。

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▼青葉茂れる東北、岩手県花巻市の花巻農業高校を訪ねた。その敷地内の「花巻農学校精神歌」の詩碑の周りに咲く可憐なムラサキサギゴケの花群れを、宮沢賢治を巡る花巻の旅の「花」としよう。

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▼宮沢賢治は大正10年(1921年)25歳で稗實郡立稗實農学校(のちの県立花巻農学校)の教師となり30歳で退職するまでを勤める。26歳の時に「精神歌」を書き、これが校歌となり今も歌い継がれている。
日ハ君臨シ カガヤキハ
   白金ノアメ ソソギタリ
   ワレラハ黒キ ツチニ俯シ
   マコトノクサノ タネマケリ

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▼花巻空港に隣接する花巻農業高校の正門に入ると、あの有名な「思索する宮沢賢治」が銅像となって立っている。その向こうから太鼓の音がこだまする。郷土芸能の鹿踊りを高校生たちが練習している。その前を通ると、皆がいっせいに「こんにちわ」と挨拶をしてくれた。清々しい。

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▼高校生たちの後ろに際立つ深紅のツツジの向こうに立つ古い日本家屋が目的とする「賢治の学校」と呼ばれる「羅須地人協会」だ。
賢治は30歳になる大正15年3月、岩手県立花巻農学校を依願退職する。「わたしも教師をやめて本当の百姓になって働きます」と友人に手紙を書いているように、飢饉や凶作で苦闘する農民の側に立ちながら公僕として安定した収入を得ていることへの矛盾を一掃したかったのではないかと推測されている。
4月から独居自炊の生活をしながら「羅須地人協会」を立ち上げた。その建物がそのまま、校内に遺されているのだ。そのいきさつについての説明文が掲示されていた。実に興味深い。

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「賢治先生の家は、もと花巻町下根子桜(今の花巻市桜町)に、先生の祖父宮沢喜助翁隠居所として建てられたものであります。
 大正15年に花巻農学校(今の花巻農業高等学校)を退職された宮沢賢治先生は、この家に「羅須地人協会」を設立、近隣の若い人たちや農村の人たちの教育の場とし、また多くの詩を書き、農耕にしたがい、自炊生活をして農村のため、捨て身の猛運動をはじめたのでした。
 そのために病気になり、とうとう三十七歳の若さで、先生は昭和八年九月二十一日豊沢町の自宅で逝去されました。生涯独身でした。
 昭和十一年桜の地に「雨ニモマケズ」の碑を建てるとき、この家は宮野目村の農家の人に譲られました。ところが、このたび花巻農業高等学校が、現在の地に新築されることになりましたら、驚いたことに、この賢治先生のゆかりの深い家が、一部分は直されたこともありましたが、大体昔のままの造りで学校の校内になる場所に健在だったのでありました。
 なんという不思議なめぐりあわせでしょう。同窓会に学校も協力、一同で熱心に復元にあたり、ここに賢治先生の住まれたなつかしい家が姿を現しました。そのうえ
そばの松の木の下、花に囲まれた庭園の一角に「花巻学校精神歌」の碑も建てられ、ほんとうに、皆さんに喜ばれる、すがすがしい気持ちよいところになりました。  昭和四十四年十一月七日 」

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▼建物の中には、学校で鍵を借り、入ることが出来る。
中には八畳ほどの教室がそのまま残っていた。この空間で、賢治は、土壌学・植物生理・肥料学・エスペラント・地人芸術概論・・・・と時間刻みの講義を30余名の若者におこなっていたのか。「まづもろともに輝く宇宙の微塵となつて無方の空にちらばろう」「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」・・・これらの名フレーズが生み出された「農民芸術概論綱要」もここでの講義用に執筆されたものである。
▼鹿踊りの太鼓の音が何度も何度も繰り返し校内に響き渡る。新緑の大気の中に光と共に、この学校は今も賢治に包まれていると素直に思った。

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▼「羅須地人協会」の玄関、黒板に「下ノ畑ニ居リマス 賢治」と書かれている。復元整備の際に、弟の宮沢清六氏によって書かれたものだが、消えないように農業高校の生徒によって上書きされ続けているのだという。まもなくあるじが帰ってくる時間かな。

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