●奇縁
ユリノキ / モクレン科の落葉高木。5月?6月に高い梢の葉陰にチューリップ、あるいはユリのような黄緑色の花が咲くところからユリノキという名がついた。葉が着物の半天のようにみえるところからハンテンボクとも呼ばれる。明治7年頃、アメリカから渡来した。
▼冬、裸となったユリノキが好きだ。突き刺すように紺色の空にまっすぐに伸びた幹、地面に這いつくばって見上げたショットを探っていると、日常の些事があほらしくなる。気が晴れてくる。
一笑されるかもしれないが、ユリノキとは不思議なつながりがある、と感じている。自分にとってのユリノキは、「2001年宇宙の旅」のモノリスのような存在だと思っている。なにか物思いにふけって歩いていると、不思議にユリノキが現れ、啓示をくれる、と勝手に思い込んでいる。
▼新宿御苑には、見事な二本の巨樹が聳えている。10年前、その威容を初めて見た時のことは忘れられない。ハクモクレンやシデコブシの新芽など目の前に現れるものをカメラにおさめて歩き、日本庭園から広場に入った時、二本の巨樹に出会った。
▼新宿御苑は、江戸時代に高遠藩の下屋敷だったところを明治政府が近代農業試験場として使用していた。そのためモクレン、梅、桜・・古く立派な樹が多いとは聞いていたが、広大な芝生の広場の中心に聳える巨樹、それがユリノキだった。高さ40メートルはあるだろう。太い幹が3本、寄り添うように聳え立つ。さっそくシャッターを押しながら、久々に高揚する自分を感じた。
▼次の日、図書館の棚にある一冊の本を手にとった。毛藤勤治氏ノ「ユリノキという木」(アポック社)という本だ。さりげなく開くと、まさに昨日見た新宿御苑のユリノキの写真が零れ落ちてきた。
さらにキャプションを見て驚いた。そのユリノキこそ日本に渡来した初代だというのだ。その1本のユリノキから日本各地の並木道は始まった。ユリノキ二世達の四谷迎賓館前の並木道、丸の内の並木道・・・いすれも撮影したことがある木々だがそれらはみなこの初代の樹に連なっていたのだ。説明によると新宿御苑のユリノキは明治7年に植栽、樹齢は120年だという。
▼おおげさに言って、また失笑を買いそうだが、2003年のこの日、二本のユリノキの原点ともいえる巨樹と出会えたことに奇縁を感じる。明らかにここを起点に、私の第二の人生が始まった。
▼60歳の還暦の冬、御苑の二本のユリノキの下に立った。自分にとって、ユリノキはやっぱり「2001年宇宙の旅」の「モノリス」なのだ・・・その奇縁を自分勝手に意味付けてみると、このごろの憂鬱も吹き飛んでいくような気がする。