●天と水と人で咲く
▼今日の花は、手のひらに咲いた花にする。「花は咲く」のギターの音色に合わせて咲いた手話の花だ。
▼1月22日の夕方、福島市の福島赤十字病院のロビーに、ギターの音色が緩やかに、響き渡った。カーネギーホールの演奏で「六弦の魔術師」と異名をとった国際的なギタリスト、長野文憲さんの被災地を巡る旅に同行した。
▼長野さんとの出会いはもう20年前になる。広島に勤務していたころ、市内の「スタンド」で、心の隅々まで流れ込むようなギターの音色を生で聞く機会に恵まれた。以後、奏者・長野文憲さんとのつきあいがはじまった。
長野さんは、被爆地・長崎で生まれ、焼け焦がれた大浦天主堂を遊び場にして育った。その後、広島に移り住み、ギタリストの道を歩み始める。
2011年の東北大震災の直後の8月、ギターを持って、被災地に入った。混乱の続く福島赤十字病院の講堂でギターの演奏をした。周りには段ボールが積まれ、わずかな空間の中での演奏だった。意図したわけではないが、偶然、その日は8月6日だった。
▼それから4年、毎年、赤十字病院を訪れている。長野さんは、今回、NHKのスマイル・キャラバンと連携して、この病院を皮切りに仮設住宅を回った。
▼3年すぎても、放射線への不安の中にある福島の状態は深刻だ。福島赤十字病院には今も毎日50人の子供たちがホールボディカウンター室にやってくる。福島市内には、仮設住宅に入らずに、アパートで一人暮らしをする高齢者が点在している。そういう人たちの心のケアが時間の経過とともに見過ごせない問題となっている。長野さんのコンサートの知らせは病院職員が手分けし一人暮らしの人たちにも伝えられた。
「日本の唱歌メロディ」「アルハンブラ宮殿の想い出」「ラ・クンバルシータ」「さくら」・・・・・被災から3年目、静かに奏でられるギターの音色ほど癒してくれるものはない。
▼次の日の朝、福島に冷たい雪が舞った。訪ねた会津若松市郊外の仮設住宅は雪の中、軒先には長いツララが伸びていた。あちこちで雪かきをする人がいた。この仮説住宅には、福島第一原発の1号機から4号機が所在する町、大熊町の住民たちが避難してきていた。
▼長野さんの謙虚な語りに続いて、お馴染みの「禁じられた遊び・ロマンス」が静かに奏でられ、小さなコンサートが始まった。1時間の演奏は、格別であった。観客は、和やかに素直に、演奏に呼応した。すばらしい空間が出来上がった。
▼仮設住宅のそれぞれの棟には目印として子供たちが描いた絵が貼られていた。その一つを写真に撮った。「天と水と人でさく」これも本日の花として登録しよう。