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2014年02月06日

●思いのまま

思いの儘/ 咲き分けの梅。開花期は2月上旬?3月中旬。花色は淡紅色、紅色、絞り、白と1つの枝の中にも色々な花を正に「思いの儘」に咲き分ける。花は八重咲きの中輪。

▼きょう、福岡県の太宰府天満宮の「梅の使節」から安倍首相に贈られ、脚光を浴びた「思いのまま」。紅白の花輪が身を寄せ合って咲き誇る姿は微笑ましくも可笑しくもある。

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▼紅梅の鮮やかさ、白梅の清楚さ、それぞれ良いが一度に見たいものだと思いながら歩く暇人が、かつていた。ある時、暇人は目を疑う光景に曹禺する。なんと同じ樹に白梅と紅梅が咲き誇っているではないか。こんな奇跡があろうか。男はすぐに山里から枝を持ち帰り、栽培をはじめた。各地に広がる咲き分けの梅もあのソメイヨシノも、いま世界各地に広がるイチョウの樹も、最初は一人の暇人の好奇心と遊び心から始まった。この微笑ましい?思いのまま?も、それに価値を見出す目線がないとなんの意味もない。
▼小学生の頃、クラスに人気者が彗星のごとく現れる。その時、よく目を凝らすと、必ずその横に「あいつは面白い。すごい奴だ。」と評価し皆に伝播する奴がいた。そんな陰の仕掛け人こそ凄いと思った。どんなものであれ、初めて?ある価値?を世に触れ込む者には遊び心と独創性と覚悟がいるものだ。

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▼時空を超えたいと思った人々の遊び心がが生み出した“不思議の箱”テレビ。しかし、最近、このテレビ局の現場からも遊び心がなくなっている、と、テレビ創世記、業界で活躍していたA氏は焼酎を飲みながら溜息をついた。その思いが痛い。テレビ局が情報産業の牽引役としてまさにデジタル信号のように0か1、無駄なものをどんどん切り捨てていくうちに、「この世の営みの行間を読む」思い思いの遊び心が鳴りを潜めていくような寂寥感に襲われる。「つまらない。みんな稚拙だ。」先輩の呟きが重く響く。
▼かつてテレビの製作現場の人間たちは一般社会から見れば得体の知れない集団だった。制作会社にいたA氏が編集室に篭っている時の話である。黄色いセーターを着てソフアに横になるA氏。彼の前にはじっと同じ映像をみる口少ない編集マンがいる。その編集マンはいつもガムを噛んでいる。そして噛み終わったガムをなんと彼は壁に貼り付けるという奇妙な癖があった。黄色いセーターとガムの男二人が籠もる暗い編集室。壁には膨大な数のチューインガムの塊がくっついている。この不思議な空間で時折ポツンポツンと交わされる会話がゆっくりと縺れ合いながら、何かが生まれ出でてゆく。

▼或る時、突然、その制作会社の役員が都市銀行のトップを連れてこの奇妙な部屋に現れた。その制作会社に都市銀行が融資するかどうか、先ずはテレビの制作現場を見てみたい、という申し出があったためだ。?黄色いセーター?の横に腰掛けた?都市銀行?トップは、今、何をやっているのか、教えてくれという。?黄色いセーター?はまだ目の前に現れない番組の姿をできるだけ丁寧に語ろうとするが?都市銀行?は首を傾げた。「それがそんなに面白いですか?」といわんばかりだ。その不可解な表情を見て?黄色いセーター?はこう切り出した。「銀行の仕事は何が面白いのですか?」都市銀行はきりっとした表情で即座に答えた。「巨額の資金を動かせることです。」 
▼企業の仕事には、目標に向って突き進む白か黒かの明解なモチベーションがある。それが企業行動の常識なのだろうが、かつてのテレビの仕事にはそう簡単には割り切れない行間のカオスをあえて引き受けるのを良しとするところがあった。言ってみれば「中庸」の視点である。中庸というと日和見主義ととらえられそうだが、孔子が唱えた中庸の徳は決して投げやりなものではない。事の真相を組織や社会の常識に囚われることなく自分の頭で考え抜く精神の自立がこの中庸という言葉には託されている。かつてテレビの現場にはこの中庸の精神を持ちあわせた職人が大勢いたように思える。
▼今、我々の暮らしはアナログからすっかりデジタル信号に入れ替わった。0か1かの二進法の世界。映るか映らないかの世界、曖昧なゴーストのない世界・・・。それと併走するかのように、世の中には二元論が蔓延しているように思う。左翼か右翼か、勝ち組か負け組か・・・わかりやすい二元論の世界に人々の思考を押し込めて安易な行動に駆り立てようとする空気が充満している。それを体いっぱいに感じ取りA先輩は「つまらない。」と呟く。もっと思いのままに曖昧なプロセスを漂い中庸にたどり着く多様な道筋があってもいいのに。所属は見えても個人の顔の見えない世界・・・。

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▼ちなみに、この短い見学が功を奏したのかどうかは定かではないが、銀行からの融資は無事得ることができたそうだ。 20年以上前の話だ。

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