▼宵のうち、そっと家を抜け出し、公園に。陽が桜の花びらに差し込む時刻をじっと待つ。至福の時間、一条の光が差し込み、幽玄の花森が浮かびあがる。
▼いつものように、テーブルにカセットラジオが設置されたのはラジオ体操が始まる3分前、ごく自然にごく当たり前に、桜の木の下で、ラジオ体操が始まる。
▼「からだのあちこちが痛いのよ。」「あんた、ほっといちゃだめよ。すぐ、病院行きなよ。」「わかった。」「じゃあ、また、あした。」 カセットラジオを自転車に乗せ、老人はゆっくりペダルを漕ぎ出す。そうして、春の公園の一日が静かに動き出す。