●乙女の戸惑い
キンセンカ(金盞花)/キク科キンセンカ属。地中海沿岸原産の一年草。寒さに強い花で暮れから3月ころまで咲き続ける。茎の先端に径5?6cmの花を一個つける。舌状花は赤味を帯びた黄色系で花色の変化が多く,重弁品も多い。室町時代の末期には渡来、唐金盞花とよばれていたので中国経由で入ったと思われる。花言葉は、乙女の美しい姿・失望・悲しみ・用心深い・悲嘆・別れの悲しみ、不安・疑惑・嫉妬(仏)
黄色い金盞花の花言葉は、悲歌・繊細な美。橙色の金盞花の花言葉は、静かな思い
午後の斜光が、キンセンカの淡い黄金色を包み込んでいる。この一輪の花を、15日に逝った詩人・吉野弘にささげたい。
夕焼け 吉野弘
いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
可哀想に。
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をギュッと噛んで
身体をこわばらせて???。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。
キンセンカの花言葉は、乙女の静かな戸惑い。