●格別の「父と暮らせば」
鷺草(さぎそう)/ラン科ミズトンボ(ハベナリア)属 学名のHabenariaは、ラテン語で「手綱」を意味するが、葯の形に因む。湿地に生える。白く広い唇弁は左右に多数切り込む。それを鷺の翼に見立てた。花言葉は、しんの強さ・発展・名伯楽
▼今年も、新宿・紀伊國屋サザンシアターで、こまつ座公演の「父と暮らせば」を観た。なぜ、今年、こんなにも涙が頬を伝い、これまで以上に、井上ひさしの台詞ひとつひとつが心の隅々まで染みわたるのだろうか。それは戦後70年だからという“論”ではない。一重に、美津江役の栗田桃子の清楚な特別の感性が、切ない台詞の一つ一つを精錬して、それが竹造役の辻萬長の野太い声を轟かせ、ホールの人々は笑い、泣き、一体となって打ち震えた。
▼美津江役の栗田桃子の父親、役者の蟹江敬三は昨年、亡くなった。娘は喪に服しながら喪失の痛手の渦中に舞台に立った。そのことが、ここまで、作品をさらに浄化したに違いない。
▼「すべての手記を読んだわけではありませんが、それでも手に入った手記を数百編、拝むようにして読み、そこからいくつもの切ない言葉を拝借して、あのときの爆心地の様子を想像しました。そして、それらの切ない言葉を再構成したのが、この戯曲です。そのときのわたしは、『これらの切ない言葉よ、世界中にひろがれ』と何百回となく呟きながら書いていました。」(井上ひさし 2003年4月)
▼ありがたい時間を過ごすことができた。深謝!