●再びの芽
▼鬱陶しい雨がおさまった日、ベランダに出た妻が見つけた。「あの枯れ枝から芽が出ているわよ。」言われてベランダにでると確かに、わずかばかりの緑が健気に顔を出している。
▼1年前、会社の窓際の一角に、もらったグアバナの種をまいた小さな鉢を置いた。若いスタッフが、メキシコからのお土産として持ってきてくれたものだ。
▼グアバナは、森のカスタードアイスと呼ばれ緑色でイボのような黒い粒がたくさんついていて、白い繊維質の果実は香りが強く、甘酸っぱいトロピカルフルーツだという。ひょっとしたらいつか実をつけるかもしれない、淡い期待をもって、机の後ろに備えた。
▼それから一年、管理職の立場を去る内示を受けた。その直後、関連づけるの情緒に走りすぎでいやらしいが、グアバナにカビが生え酸素不足に陥ったのか、あっという間に葉が散りか細い枯れ枝1本となった。あわてて家に持ち帰り、もう手遅れかもしれないと思いつつ、根を洗い植え替えた、
▼新しい職場に移って2週間が過ぎた。人を管理する、人の人事に関わるという、やっかいな責任から解放された。会議のない日々、時間を自分で管理するという最大の贅沢を得て、自分の中で「ナノ・カンパニー」の旗を掲げ、これからは「人間という肩書き」で堂々と生きていこうと思う。
▼雨模様の日々の間隙にわずかに雲間から差した陽を受けて、謙虚に輝く「再びの芽」は、あらたな行く手を示してくれる連旗のように見えるのはまだ転機を迎えた感傷の中にあるからかもしれない。